こんにちは、マーケターのアミーゴです。この連載「コンパス」では、脱炭素を目指す企業の皆さんに役立つ情報をお届けします。
今回のコンパスシリーズでは、米新政権の気候政策の変化を整理し、国際社会の反応や企業の対応策を4回にわたり解説します。
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3回目となる今回は、米国のパリ協定再離脱に対する国際社会の対応や、各国の気候戦略と脱炭素の流れを解説します。米国の離脱は、国際的な温室効果ガス削減の枠組みに大きな打撃を与えるものであり、気候資金の拠出停止も重なって、国際社会に波紋を広げました。しかし、EUや中国、日本といった主要国はこの逆風の中でも歩みを止めることなく、独自の政策と戦略で脱炭素への取り組みを加速させています。本記事では、その最新動向を読み解きます。
目次
- EUの対応:米国不在でも脱炭素政策を継続
- 中国・インドの対応:削減ペースの調整と義務緩和の動き
- 日本の対応:独自の脱炭素戦略の推進
- 途上国への影響:気候資金削減によるリスク
- 米国不在でも進む脱炭素の流れ
EUの対応:米国不在でも脱炭素政策を継続
米国がパリ協定を離脱しても、EUは脱炭素政策を強化する姿勢を示しています。
- 欧州グリーンディールの推進
欧州グリーンディールは、EUが2019年に発表した環境保護と経済成長の両立を図る政策であり、2050年までに温室効果ガスの正味排出量をゼロを達成することを目指しています。 米国が抜けても、この方針が揺らぐことはありません。
- カーボンボーダー調整メカニズム(CBAM)の導入
2026年から、EUは輸入品に対して炭素排出量に応じた関税を課すCBAMを本格導入する予定です。これにより、EU域内外の企業に対して炭素排出削減のインセンティブを強化しています。
- 「米国が抜けても協定は維持する」との強い姿勢
EUの指導者たちは「パリ協定の目標達成に向け、引き続き国際社会と連携する」との立場を強調しています。むしろ、米国の不在を契機にEUの気候リーダーシップが強化される可能性があります。
参考:CBAM|European Commission
中国・インドの対応:削減ペースの調整と義務緩和の動き
米国が離脱することで、中国やインドなどの新興国の対応にも変化が生じる可能性があります。
- 中国の対応
中国は再生可能エネルギーへの投資を加速しており、2025年第1四半期にはクリーン電力の発電量が前年比19%増の951TWhに達しました。これにより、クリーン電力の割合は39%に上昇し、特に太陽光と風力の成長が顕著です。 一方で、2024年に30.5GWの石炭火力発電所(温室効果ガスの排出量が最も多い発電方式の一つ)を新設しており、石炭依存の継続が課題です。
- インドの対応
インドは再生可能エネルギーの導入を積極的に進めていますが、同時に石炭火力発電の拡大も行っています。2024年には5.6GWの石炭火力発電容量を新たに追加しました。インドは2070年までにネットゼロを達成する目標を掲げていますが、米国の支援減少は途上国にとってリスクであり、COP29では新たな資金枠組み(NCQG)をめぐる議論が続いています 。
参考:China Sets Clean Energy Record in Early 2025 with 951 TW|CARBON CREDITS
米国の離脱は日本にも影響を及ぼしますが、日本政府や企業は独自の脱炭素戦略を維持・推進する方針です。
- 2050年カーボンニュートラル目標の維持
日本政府は、2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを宣言し、以降もこの目標を堅持しています。さらに、2030年度には2013年度比で46%の排出削減を目指す中期目標も設定し、具体的な行動計画を策定しています。
- グリーントランスフォーメーション(GX)投資の加速
政府は、今後10年間で150兆円を超える官民GX投資を実現する計画を立てています。この投資は、再生可能エネルギーの拡大、CCUS(炭素回収・貯留)、水素・アンモニアの活用など、多岐にわたる分野を対象としています。特に、GX経済移行債の発行により、これらの投資を支援し、産業競争力の強化と排出削減の両立を図っています。
- 企業の脱炭素投資と技術革新
日本企業も脱炭素投資を積極的に進めています。自動車業界では、電気自動車(EV)の開発・普及、水素燃料電池車の導入が加速しています。また、鉄鋼業などの製造業では、製造プロセスの脱炭素化に向けた技術革新が進められています。政府は、これらの取り組みを支援するため、グリーントランスフォーメーション(GX)を推進しています。この取り組みの一環として、企業、政府、学術機関が連携し、持続可能な社会の実現に向けた新しいビジネスモデルや技術革新を推進する枠組み「GXリーグ」を設立しました。
- 貿易・サプライチェーンへの対応: EUが導入を進めているカーボンボーダー調整メカニズム(CBAM)により、日本の輸出企業は炭素排出量の可視化や削減が求められる可能性があります。これに対応するため、企業はサプライチェーン全体での排出量管理を強化し、国際競争力の維持と市場アクセスの確保に努めています。
参考:
カーボンニュートラルとは|環境省
我が国のグリーントランスフォーメーション政策|経済産業省
途上国への影響:気候資金削減によるリスク
米国のパリ協定再離脱は、途上国への気候資金提供に深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に以下の点が懸念されています:
- 資金提供の減少
米国はこれまで、途上国の気候変動対策を支援する「緑の気候基金(GCF)」などに資金を拠出してきましたが、離脱により拠出が停止されました。これにより、多くの途上国が必要な資金を確保できず、対策の遅れが懸念されます。
- 途上国の適応策への影響
特に気候変動の影響を受けやすい小島嶼国やアフリカ諸国などでは、洪水・干ばつといった災害への備えが不十分となり、社会インフラや生活基盤への影響が拡大する可能性があります。
- 国際資金目標の議論の加速
COP29では、先進国が2035年までに年間3,000億ドルの気候資金を拠出する「バクー資金目標(NCQG)」が合意されました。しかし、途上国からは「金額が不十分」「実行力が課題」との指摘もあり、今後の議論と対応が注目されます。
参考:COP29閉幕:気候資金目標に合意、ようやく1.5℃目標達成に向けた対策加速交渉のスタートラインに
米国不在でも進む脱炭素の流れ
米国の再離脱は国際的な気候変動対策に影響を与えましたが、EU、中国、日本などの主要国は脱炭素への取り組みを継続・強化しています。また、米国内でも州政府や企業が独自の気候行動を進めており、全体として脱炭素の流れは止まっていません。
次回の記事では、「米国のパリ協定離脱、企業と投資家に求められるサステナブルな戦略とは?」と題し、企業や投資家が取るべきサステナブルな戦略について考察します。