ブログ・取り組み事例 | Terrascope Japan公式

土地由来排出量の報告で知っておきたい7つのポイント|不完全なデータでもLSR対応を始められる

作成者: Terrascopeチーム|2026/12/27

本記事のポイント

  • GHGプロトコルのLSR基準では、土地セクターに関わる企業は2027年から土地由来排出量を分けて報告することが求められます。
  • LSR対応は、現在利用している排出係数を分解することから始められます。
  • 将来的に一次データを活用することで、より実態に即した排出量や炭素除去も算定・報告できるようになります。


土地由来の排出量は、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約4分の1を占めています。しかし、これまでは企業のScope 3排出量に含まれ、個別に把握されることはほとんどありませんでした。
2026年1月に公表されたGHGプロトコルの「土地セクターおよび炭素除去(LSR)基準」では、土地由来排出量をエネルギー・産業由来排出量と分けて算定・報告することが求められます。

Terrascope Japanでは2026年3月、オンラインセミナー「GHGプロトコル新基準『土地セクターおよび炭素除去(LSR)』とは」を開催しました。

本記事ではその続編として、データが十分にそろっていない段階からLSR対応を進める方法を、7つのポイントで解説します。

1. LSRは土地セクターに関わる企業が押さえたい基準 

GHGプロトコルに基づいてGHG排出量を算定・報告する企業のうち、事業活動やバリューチェーンに土地セクターの活動が多分に含まれる企業や、CO₂除去を報告する企業では、LSR基準への対応が求められます。なお、LSRには「土地由来排出量が○%以上であれば適用される」といった明確な重要性(マテリアリティ)の基準は設けられていません。
※SBTi FLAGガイダンスでは、20%をスクリーニングの目安として示しています

対象となるのは、パーム油、大豆、コーヒー、乳製品、綿花などの農産物だけではありません。木材・林産物やバイオエネルギーも含まれます。

従来は土地由来の排出量もScope1・2・3に含めて報告されていましたが、LSRでは次の3点が追加されます。

  • 土地由来排出量を、エネルギー・産業由来の排出量と分けて報告すること
  • 土地利用変化、土地管理、生物由来製品の排出量を、それぞれ区分して開示すること
  • 炭素除去は任意だが、報告する場合は永続性や排出の再発に関する厳格な要件を満たすこと

LSR基準はGHGプロトコルの基準体系の一部であり、対象企業がGHGプロトコルに準拠する場合、LSR基準への対応も求められます。日本のSSBJ基準でも、GHG排出量はGHGプロトコルに基づいて測定することが求められています。そのため、土地セクターに関わる企業にとってLSR対応は、今後の開示に向けた重要な取り組みとなります。

2. 土地利用変化は排出量を大きく左右する

算定方法を理解するうえで、まず押さえたいのが土地利用変化(Land Use Change:LUC)です。森林ではない土地で長年営農されてきた農地では、土地利用変化による排出量はほぼゼロになる場合があります。一方、森林伐採や泥炭地の転換を伴う農産物では、大きな排出量となる可能性があります。

Terrascopeが大麦の排出係数を分析した事例では、製品全体のカーボンフットプリントの約80%を、土壌およびバイオマスの炭素蓄積量の変化に伴うCO₂排出が占めていました。エネルギー・産業由来の排出量は全体の一部に過ぎませんでした。

土地利用変化による排出量は、「何を調達しているか」だけでなく、「どこで生産されたか」に大きく左右されます。森林伐採の履歴がない農地では土地利用変化による排出量はほぼゼロとなる一方、熱帯林を転換して造成された農地では、土地転換に伴う炭素排出量をLSR基準に基づき、少なくとも20年間にわたって配分して算定する必要があります。

また、Terrascopeがパーム油生産企業TSE Groupの排出量を算定した事例では、土地関連の排出量がScope 1・2・3合計の約80%を占め、エネルギー・産業由来の排出量は約20%でした。

このように、土地利用変化は企業全体の排出量構成を大きく左右する要素です。土地セクターに関わる企業では、排出量の多い原材料や生産地域を早い段階で把握することが、LSR対応の第一歩となります。

3. データの粒度により取るべきアプローチは異なる

LSR対応では、保有しているデータの粒度に応じて、適切な算定アプローチを選択します。大きく3段階に整理できます。

支出額データのみ:原材料の種類と購入金額のみ把握している段階です。まずは支出額ベースの排出係数を活用し、今後の算定に向けて重量や数量などの活動量データを整備します。

活動量データがある場合(アプローチA):原材料の物理量と原産国を把握している段階です。均排出係数を土地利用変化、土地管理、エネルギー・産業由来などに分解することで、LSR区分に沿った排出量を算定できます。

排出係数データベースは現在もLSR対応に向けた更新が進められているため、算定結果の前提や制約を明示することが重要です。

農場固有のデータがある場合(アプローチB):土地利用履歴や肥料・エネルギー投入量、調達地域まで把握している段階です。一次データを活用することで、より精度が高く、監査にも対応しやすい算定が可能になります。

アプローチAとアプローチBは排他的なものではありません。原材料ごとのデータ整備状況に応じて使い分けることができ、多くの企業では、一次データを活用できる部分はアプローチB、不足する部分は二次データで補うハイブリッド型のアプローチが現実的です。

4. 既存の排出係数にはLSR関連データが含まれている

ecoinventなどのデータベースに収録された活動量ベースの排出係数には、土地利用変化、土地管理、生物由来CO₂などの土地関連の排出要素が、すでに含まれています。ただし、それらは通常、一つの排出係数としてまとめられており、項目別には表示されません。

例えば、大麦の排出係数は1kg当たり1.88kgCO₂eという一つの値ですが、単位プロセスレベルで分解すると、土地利用変化、土地管理、エネルギー・産業由来など、それぞれの排出量を把握できます。Terrascopeでは、この構造を「排出係数ドライバーツリー」として整理し、LSR区分に沿って自動的に分類しています。

そのため、新たにサプライヤーから一次データを収集しなくても、既存の排出係数を活用してLSR対応の排出量内訳を作成できます。

ただし、ecoinventには制約もあります。土地管理に関する生物由来CO₂と土地利用変化を個別に分離できないことや、生物由来製品の排出量を十分に扱えないケースがあります。より詳細な算定が必要な場合は、一次データを活用したボトムアップ算定が望まれます。

5. ボトムアップ算定は、想像するほど難しくない

農場単位の一次データを積み上げる「ボトムアップ算定」と聞くと、複雑な計算をイメージするかもしれません。

実際には、GHG排出量はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が定める標準的な算定式に基づいて計算され、多くの係数は公開されている標準値を利用できます。

サプライヤーから取得するデータも、最低限必要なのは土地利用の履歴と収量データです。その他は公開係数や標準式を活用できるため、想像するほど多くのデータを集める必要はありません。

さらに、算定プロセスを自動化するプラットフォームを活用すれば、サプライヤーへのデータ依頼をさらに減らし、少ない負担でボトムアップ算定を始めることができます。

6. より詳細なデータが、より大きな価値を生む

農場レベルまでトレーサビリティを確保し、ボトムアップ算定を行うと、グローバル平均の排出係数を用いた場合より排出量が少なくなるケースがあります。

これは、排出係数データベースが森林破壊の多い地域を含む平均値を用いているためです。特に土地利用変化の排出量は影響を受けやすく、自社の実際の調達状況とは異なる場合があります。

一方、実際の農場データを用いて算定すれば、自社のサプライチェーンに即した排出量を把握できます。

さらに、ボトムアップ算定では、低窒素肥料への切り替えや土地管理の改善といった脱炭素の取り組みも排出量に反映できます。平均排出係数では見えない改善効果を可視化できることが、大きなメリットです。

7. サプライヤーには、必要なデータを具体的に伝えることが重要

LSR対応では、サプライヤーに必要なデータを具体的に伝えることが重要です。アプローチAでは、排出係数を一つの値ではなく、LSR区分ごとの内訳として提供してもらうことが望まれます。

  • アプローチAでは、排出係数を一つの値ではなく、LSR区分ごとの内訳として提供してもらうことが望まれます。

  • アプローチBでは、土地利用履歴、肥料・石灰の施用量、エネルギー使用量、収量など、排出源ごとの活動量データを収集します。

すべてのサプライヤーが最初から必要なデータを提供できるとは限りません。そのため、取得できるデータから段階的に整備を進めることが現実的です。

例えば、土地利用変化はGPS座標や土地利用情報を用いてボトムアップ算定を行い、肥料由来の排出量は投入データが整うまで排出係数データベースを利用するといった運用も可能です。

このように、一次データと二次データを組み合わせたハイブリッド型のアプローチにより、算定精度を維持しながらLSR対応を進め、一次データを段階的に増やしていくことができます。

LSR対応のその先にある価値 ― 除去量の活用

LSR対応は、開示への対応だけが目的ではありません。アグロフォレストリーや森林再生、土壌への炭素貯留など、土地セクター特有の炭素除去を適切に評価するための基盤にもなります。SBTiでは、FLAG目標の達成に必要な削減量の最大3分の1は、こうした除去量によって実現される可能性があると示されています。

そのため、最初からすべてのデータをそろえる必要はありません。平均排出係数を活用したアプローチAから始め、一次データを段階的に充実させながらアプローチBへ移行することが現実的です。

LSR対応を着実に進めることは、サプライチェーンの改善効果や脱炭素への取り組みを可視化し、企業価値の向上にもつながります。