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2026年度、国土交通省関連事業として「CO₂原単位等の策定に係る支援」が開始されました。
本事業は、建築物のライフサイクルカーボン評価に必要となる、建材・設備のCO₂原単位整備を支援する制度です。
募集要領では、制度の背景について次のように説明されています。
「2050カーボンニュートラルの実現に向け、建築物におけるCO₂の削減を図るため、使用段階だけでなく、建設から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じたCO₂の削減が重要」
従来、建築物の脱炭素は、建築後のエネルギー使用量、つまり「運用時CO₂」の削減が中心でした。しかし現在は、
まで含めた、ライフサイクル全体でのCO₂管理が重要視され始めています。
その中で必要となるのが、
「建材・設備の数量 × CO₂原単位」
によるライフサイクルカーボン評価です。
募集要領において、支援対象は下記のように書かれています。
一定の要件を満たす建材・設備に係るCO₂原単位の策定に対して
国が建材・設備に係る業界団体⼜は⺠間事業者等に支援を⾏う
具体的には、
など、建築物に用いられる製品のCO₂原単位整備に関わる事業者が想定されます。
さらに今回の募集要領では、前年度に使われていた「建築物LCA」という表現から、「ライフサイクルカーボン評価」へと記載が変更されています。
これは、環境影響全般ではなく、特にCO₂・GHG排出量に焦点を当てた制度設計へシフトしているとも読み取れます。
実際に今回の支援対象でも、「CO₂原単位等」が中心となっており、建築GXにおいて“製品単位のカーボンデータ”の重要性が高まっていることがうかがえます。
参考資料:令和8年度 CO2原単位等の策定に係る支援 募集要領|一般社団法人環境共生まちづくり協会
これまで企業の脱炭素対応では、Scope1・2・3の排出量把握が中心でした。
しかし近年は、建築業界を中心に、「製品そのもののCO₂」が重視され始めています。
例えば建築物では、
など、それぞれの建材・設備がどれだけCO₂を排出しているかが問われます。
これは「エンボディードカーボン(Embodied Carbon)」と呼ばれる考え方です。
建築物に使用される建材・設備の製造や輸送など、建設前後の工程で発生するCO₂を指します。
従来の建築脱炭素は、
など、建築物の“運用時CO₂”削減が中心でした。
しかし現在は、「建てる時点で発生するCO₂」そのものへの関心が高まっています。
そのため、
などの重要性が急速に高まっています。
欧州では、建築物のライフサイクルカーボン評価に関する制度整備が進んでおり、建材・設備に対する環境データ要求も広がっています。
国土交通省資料によると、EUでは2024年4月に改正された「建築物のエネルギー性能指令(EPBD)」により、
について、LCCO₂(ライフサイクルCO₂)の算定・公表が義務付けられる予定とされています。
また、一部のEU加盟国ではライフサイクルカーボン上限値規制も導入されています。
こうした流れは、日本企業にも徐々に影響を与え始めています。
建築業界でCO₂原単位や製品単位のCO₂管理が進む中で、近年よく聞かれるようになったのが、
といった用語です。
まずCFP(カーボンフットプリント)は、
「製品1単位あたりのCO₂を計算すること」を指します。
例えば:
などについて、どれだけCO₂が排出されるかを算定します。
一方PCR(製品カテゴリールール)は、
「その製品カテゴリで、どう算定するか」を定めたルールです。
例えば、
などを統一します。
そしてEPD(製品環境宣言)は、
「算定した環境データを第三者ルールに沿って開示する仕組み」
です。
つまり整理すると、
一次データ
↓
CFP算定
↓
PCRに沿った計算
↓
EPDとして開示
という流れになります。
CO₂原単位とは、「製品1単位あたりのCO₂排出量」を示すデータです。
次の表は例です。
|
製品 |
原単位例 |
|
鉄鋼 |
kg-CO₂/kg |
|
コンクリート |
kg-CO₂/m³ |
|
ガラス |
kg-CO₂/m² |
|
空調設備 |
kg-CO₂/台 |
これは一般的に、排出係数(排出原単位とも呼ばれる)と近い概念として扱われることもあります。「排出係数」は活動量あたりのGHG排出量を示す数値で、「電気1kWh使用当たりのCO₂排出量」がその一例です。
今回の「CO₂原単位」は、建材・設備など製品単位で整理された排出量データとして扱われている点に特徴があります。
ライフサイクルカーボン評価では、
建材数量 × CO₂原単位
によって建築物全体の排出量を算定します。
これは募集要領にも記載されている考え方であり、建築物に用いる建材・設備の数量と原単位を掛け合わせることで、建築物全体のCO₂排出量を評価します。今後は、建築物のライフサイクルカーボン評価を進める中で、ゼネコンや設計事務所が、建材・設備メーカーに対してCO2原単位やEPD等の提出を求めるケースが増えていく可能性があります。
特に、
などでは、製品単位の環境データが重要視される傾向があります。その意味で、CO2原単位は単なる環境データではなく、「建築GX時代の競争力に関わる情報」になり始めています。
参考資料:建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた施策の動向|国土交通省
一方で、EPDやCFP対応を進める企業の多くが、実務上の課題に直面しています。
特に大きいのが、「データ整備」です。
EPDやCFPでは、製品単位のCO₂排出量を算定するために、多くのデータが必要になります。
例えば:
などです。
これらのうち、企業自身が測定・管理している実測値や実績値、またサプライヤーから提供される実データなどは「一次データ」と呼ばれます。
特に近年は、「一次データをどこまで取得できるか」が重要視されるケースも増えています。その背景には、一次データを活用することで、自社やサプライヤーの実態に即したCO₂原単位やCFPの算定が可能になり、さらには自社の脱炭素施策を算定結果へ反映しやすくなる利点があります。
例えば、サステナビリティに配慮した原材料に変更した場合にも、業界平均などの二次データのみを利用していると、削減効果が数値として反映されにくいケースがあります。
ただし、すべてのデータを一次データだけで揃えることは容易ではありません。
そのため実務上は、原材料や輸送など一部領域について、排出原単位データベース等の「二次データ」を組み合わせて算定するケースも一般的です。
募集要領でも、支援対象経費として「データベース利用費」が含まれています。
さらに募集要領では、「製品データは、少なくとも5年ごとに更新することが望ましい 」と記載されており、単発対応ではなく継続的なデータ管理が前提になっています。
しかし実際には、
など、多くの課題があります。
特にEPDやCFP対応では、一度算定して終わりではなく、原材料やサプライヤーの変更に応じて継続的に更新・管理していく必要があります。
そのため今後は、一次データやサプライヤーデータを含め、製品単位のCO₂データを統合的に管理できる仕組みが重要になると考えられます。
Terrascopeでは、Scope3やCFP算定を含む排出量可視化を通じて、企業の脱炭素データ基盤整備を支援しています。
特に、
などは、建築GXの進展に伴い、今後さらに重要性が高まる領域と言えるでしょう。
スイス・チューリッヒに本社を置くTectus Groupは、建築・建材領域で事業を展開する企業です。
同社はTerrascopeを活用し、モジュール建築やポストテンションスラブ、材料調達、サプライチェーンなどを対象に、エンボディードカーボン分析を実施しました。
その結果、
などが確認されたとしています。
この事例からは、建築GXにおいて単なる排出量把握だけではなく、「どの材料を、どこから調達し、どう設計するか」まで含めた検討の重要性が高まっていることがうかがえます。
参考動画:Tectus Group 事例紹介動画|Terrascope(英語)
募集要領では、支援対象経費として以下が明記されています。
支援事業期間中に発生した、CO₂原単位等策定に係る人件費が対象となります。
また、「検討を他の事業者に委託した場合は、委託費のうち人件費相当分」も支援対象とされています。
CO₂原単位等策定に必要な有償データベース利用費。
ISO14025に基づく第三者検証費用。
第三者検証業務を他事業者へ委託した場合の委託費も対象に含まれます。
CO₂原単位等を公開するために必要な費用。
CO₂原単位等策定に係る算定ツール利用料。
ここで重要なのは、「算定実務そのもの」が支援対象になっている点です。特に、建築GXで求められる製品単位CO₂管理では、一次データ収集やサプライヤー連携、継続的な更新管理など、運用負荷も発生します。
そのため今回の支援事業は、単なる「算定費用補助」ではなく、「建築GXに必要なデータ整備基盤を後押しする制度」として見ることもできるでしょう。
建築GXの進展により、今後は建材・設備にも「製品単位のCO₂データ」が求められる時代になりつつあります。
特に、
への関心が高まる中で、「どの材料を、どこから調達し、どれだけCO₂を排出しているか」を把握・説明できることが重要になっています。こうした流れの中で、EPDやCFPへの対応も広がり始めています。
より正確な算定や削減施策の反映には、データ収集や更新管理など継続的な運用負荷も発生します。そのため今後は、単発の算定だけではなく、「継続的に管理・活用できる脱炭素データ基盤」の重要性がさらに高まっていくと考えられます。