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LSRGとは?CSOが知っておくべきGHGプロトコル新ガイダンスの影響と対応策

作成者: Terrascope Team|2025/52/22

サマリー

  • LSRGは、温室効果ガス(GHG)インベントリにおける土地利用、土地管理、炭素除去の報告方法を標準化します。

  • この新しいガイダンスは、SBTi FLAG、CDP、IFRS基準など複数のフレームワークに影響を与え、企業の排出算定・開示の透明性を高めることを目的としています。

  • 企業は、データ収集の標準化と部門横断の連携強化が求められます。

  • 信頼性のあるインセッティングには、厳格なMRV(測定・報告・検証)と、明確なサプライチェーンのトレーサビリティが不可欠です。


2025年末が近づく中、GHGプロトコルの「土地セクターおよび除去ガイダンス(Land Sector and Removals Guidance:LSRG)」
の最終版の公開が目前に迫っており、企業にとってその影響は非常に大きなものです。食品・飲料、農業、小売、消費財、林業など、どの業種においても、今や明白なメッセージがあります。土地利用由来の排出に関する曖昧な時代は終わりました。


数週間前、私はSBTiのStephen Mackenzie氏、KellanovaのEmily O’Halloran氏、TrellisのMargaret Morales氏とともにパネルディスカッションに参加し、本ガイダンスの意味、変更点、そして企業がグリーンウォッシングやデータ麻痺に陥ることなく、いかに信頼性のあるインセッティングや炭素除去に取り組めるかを議論しました。議論は以下の3つに分かれました。


LSRG 101:何が変わるのか、そしてなぜ重要か

これまで、世界のGHG排出量の約4分の1を占める土地由来の排出は、企業インベントリにおいて過小報告または不統一な算定が行われてきました。主な原因は、標準化されたガイダンスの欠如にあります。
しかし、LSRGの最終化により、土地集約型サプライチェーンを持つ企業には迅速な対応が求められています。新ガイドラインは、これまで以上に厳密かつ複雑であり、膨大なデータの管理を伴います。

LSRGは400ページを超える大規模な文書で、企業基準(Corporate Standard)およびスコープ3ガイドラインを合わせたよりも長い内容です。既存のスコープ1・2・3構造に加え、土地利用変化、土地管理、炭素除去の3つの主要カテゴリーを新たに追加しています。

これらの異なる炭素プールを正確に区別できる能力は、GHGプロトコル準拠の必須条件です。企業がサステナビリティレポートで「GHGプロトコルに準拠」とうたうのであれば、インベントリはこうした複雑性と炭素プールの違いを正確に反映していなければなりません。

さらに、LSRGは単独で存在するものではありません。SBTiのFLAGガイダンスをはじめ、CDPやIFRSなど他の基準にも影響が及びます。特に、2023年以前に目標を設定したFLAG対象企業は、LSRG最終化から6か月以内にFLAG目標を追加することが求められています。

そして何より重要なのは、LSRGが「ガイダンスの欠如」という課題を解消した一方で、次のボトルネックが“データ”であることを浮き彫りにした点です。とくに土地管理単位レベルでのデータ要件は、今後劇的に増加することが予想されます。

 

気候戦略の進化:FLAGからインセッティングへ 

パネルディスカッションの中で、SBTiのStephen氏は「企業が直面している変化の大きさをSBTiは十分に認識しており、行動を止めるべきではない」と強調しました。
複数のフレームワークでも同様に、「誠実な進捗が見られる限り、罰則を設けることはない」という現実的な姿勢が共有されています。

KellanovaのEmily氏は、再生型農業やサプライチェーンとの協働に関する実践的な知見を紹介しました。彼女のアドバイスは明快です──「すべてを標準化すること」。社内のデータ収集フォーマットから、サプライヤーとの会話で使う用語までを統一する。さらに、データ受け付けの責任者を明確にし、情報の一元管理を徹底することが重要だと指摘しました。

議論では、インセッティング(自社サプライチェーン内での排出削減)についても掘り下げました。この概念は、今後「サプライチェーン介入」などの新しい呼称に置き換えられる可能性もありますが、その重要性は急速に高まっています。適切に実施されたインセッティングは、企業のバリューチェーンに直接的な排出削減効果をもたらしますが、その実効性と信頼性が成否を分けます。

LSRGは、厳格なMRV(測定・報告・検証)要件を設けています。継続的モニタリング、結果の不確実性評価、リバーサル(再排出)の報告、トレーサビリティ(追跡可能性)の確保が求められます。

これらはコスト面にも影響を及ぼします。MRVの実施コストが排出削減によるメリットを上回る場合、そのプロジェクトは実施すべきでない可能性があります。そのため、すでに存在するプロジェクトやプログラムとの相乗効果を見つけることが重要です。

例えば、生産者がすでに土壌サンプルを採取している場合や、小売業者が再生型農業プログラムに資金を提供している場合などです。LSRGの新しいガイダンスは、そうした既存の活動を信頼性のある気候対応策として位置づけるための「設計図」を提示しています。

 

企業が今すべきこと

では、2025年Q4以降に向けて、企業はどのように行動すべきでしょうか。
私の見解では、方法論や排出カテゴリーの詳細に入る前に、まず次の3つのステップを実行することが不可欠です。

  1. 内部から見直す 

    最初の、そして最も戦略的な一手は、社内の足並みをそろえることです。多くの企業はデータ不足を外部の問題と捉えがちですが、実際には必要な情報がすでに社内に存在しているケースが少なくありません。「調達部門のDaveが持っていた」──そんな事例はよくあります。こうしたギャップは時間の浪費であり、信頼性を損なう要因にもなります。

    LSRGへの備えは人から始まります。早い段階で部門横断的な関係者を巻き込み、自社にどんなデータが存在するかを洗い出しましょう。思いもよらない場所に、有用なインサイトが眠っているかもしれません。

  2. データ管理を標準化する 

    排出関連データを社内や外部パートナーからどのように受け取り、保存するのか──そのルールを明確にする必要があります。 形式・単位・提出方法をあらかじめ合意し、データ収集プロセスの責任者を定めましょう。 その人物が品質の担保役となり、レポートシステムにデータが流れる前に、目的に適した内容であるかを確認します。

    この集中管理と標準化のアプローチにより、アイオワ州のサプライヤーからでも、ジャカルタの財務担当者からでも、同じ品質・フォーマットでデータを扱うことができます。 これはミスの削減だけでなく、翌年以降の業務負担の軽減にもつながり、本来注力すべき排出削減活動にリソースを集中させることが可能になります。

  3. 未解決の課題に足を引っ張られない 

    LSRGの最終版では、トレーサビリティの深度など、これまで不明確だった要素に関する具体的な指針が示されます。公開後は、何が確定し、何がまだ解釈の余地を残しているのかを迅速に把握することが大切です。
    重要なのは、立ち止まらないことです。FLAG目標の設定、移行計画の策定、再生型農業イニシアティブの試行など、まずは行動を起こすことが、ステークホルダーに対して前向きな姿勢を示す最良の方法です。これにより、将来の変化にも柔軟に対応できる体制を築くことができます。

LSRGはこれまでになく詳細な情報とドキュメントを求めています。しかし、対応を始めるのに外部コンサルタントや新しいソフトウェアを導入する必要はありません。出発点は、自社のチーム・データ構造・内部プロセスの可視化と整理です。


もしこの記事から一つだけ学びを持ち帰っていただけるとすれば、それはこの言葉に尽きます。
「外を探す前に、まず内を見よ。」
それこそが、LSRG時代における信頼性が高く、説得力ある、そして成果につながる気候アクションの出発点です。

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Terrascopeは、投資家との信頼構築、資金調達の加速、ネットゼロ移行の推進に向けた取り組みをご支援します。
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