鶏肉は、世界で最も広く消費されているタンパク源の一つです。鶏肉のカーボンフットプリントは、牛肉(70〜80%低い)やラム肉(75〜80%低い)に比べて小さいものの、生産規模の大きさ(2020年には約708億羽が食肉用として処理された)から、その排出管理は極めて重要です。さらに、小売業者や調達先は、気候目標と整合するサプライチェーンを実現するため、科学的根拠に基づく目標(SBTi)の導入をますます重視するようになっています。
鶏肉の大量消費に伴う排出のホットスポットは、飼料生産(大豆、小麦)、家畜ふん尿の管理、および農場内のエネルギー使用に分類されます。家禽の排出量の約78%はFLAG(森林・土地・農業関連)に、22%は非FLAG(エネルギー・輸送等)に該当します。
低炭素型の家禽生産は、飼料やスコープ2(購入電力)に関するFLAGおよび非FLAG対策を通じて、実現可能であり、経済的にも魅力的な取り組みとなり得ます。
効果的な対策は、飼料 + 土地利用に関する戦略を組み合わせ、サプライヤーとの連携、長期のオフテイク契約、ブレンドファイナンス(複合資金調達)、透明性の高い移行計画などを通じて進められます。
鶏肉生産企業のバリューチェーンを「Cradle to Gate(ゆりかごからゲートまで:原材料から農場出荷まで)」の範囲で分析すると、主要な排出源が明確に見えてきます。
土地および農業に関連する活動で、農場出荷時点までが対象:
土地利用以外のエネルギーや輸送に起因します。
これらの排出源は、鶏肉に限らずアヒルなどの単胃動物(モノガストリック)でも共通しています。
ビジネスの視点から見ると、こうした排出要因の多くは財務上の非効率でもあります。限界削減費用曲線(MACC)の分析では、すでに投資収益がプラスとなる脱炭素化手段が複数確認されています。
たとえば飼料は、家禽生産者の運営コストの最大70%を占めており、この分野での効率化は経済的インパクトが非常に大きくなります。精密な飼料管理や、森林伐採に関連する大豆をエンドウ豆や菜種などの代替品に置き換えることにより、排出強度を低減すると同時に飼料コストも削減できます。
また、エネルギー効率の改善や屋上太陽光発電システムの導入は、スコープ2の排出量を削減しつつ、電力コストの削減にもつながります。嫌気性消化装置のような資本集約的ソリューションも、再生可能エネルギークレジットやバイオガス販売などを通じて、長期的な財務的価値を生み出します。研究によれば、嫌気性消化装置は家禽由来のメタン排出を40〜60%削減できる可能性があります。
大手の家禽企業の中には、Scandi StandardのようにSBTiに沿った中長期のFLAG目標と移行計画開示を導入している企業も存在します。
Scandi Standardの取り組みは以下の要素で構成されています。
彼らの資金調達モデルは、長期オフテイク契約、サプライヤー連携プラットフォーム(英語記事)、ブレンドファイナンスを柱とし、移行コストの削減、データ透明性の向上、バリューチェーンのレジリエンス強化に寄与しています。
低炭素家禽の先行企業は、鶏肉を「気候に配慮した選択肢」として市場に提示し、プレミアム市場の開拓、ブランド評価の強化、小売業者や消費者の需要への対応を図ることができます。
脱炭素戦略は一般に、回避 > 削減 > 代替 > 除去 > オフセットという緩和の階層構造に基づいて整理されます。家禽業界においても、以下の戦略が重要となります。
SBTiのFLAGフレームワークでは、鶏肉生産者は2020年から2030年にかけてFLAG排出強度を年平均約3.9%ずつ削減する必要があります。鶏肉は11のFLAG作物ルートの一つとして、ベースライン検証に加えて追加審査を受ける対象です。
飼料や土地利用に大きく依存する家禽業界においては、SBTiはより広範な土地セクター戦略を推奨しています。耕起の削減、カバークロップの導入、作物–家畜統合といった農法は、地域条件に応じて年間0.3〜1.0 tCO₂e/haの炭素隔離効果を示します。
アグロフォレストリー(農林複合)のような手法では、樹木を農地や牧草地に取り入れることで、年間1〜2 tCO₂e/haのバイオ炭素を隔離でき、生物多様性や気候レジリエンスも向上します。
供給側の対策に加え、、需要側の変化も土地への圧力を和らげます。食品ロス削減、飼料からタンパク質への変換効率の改善、食生活の多様化促進などの取り組みは、家禽需要の増加を抑制し、資源効率の向上に寄与します。
これらのアプローチを組み合わせることで、短期的な介入を超えた長期的・システム全体での脱炭素化が可能になります。
家禽業界の脱炭素化は、レジリエントなサプライチェーンの構築、プレミアム市場へのアクセス、そして炭素に配慮した経済における消費者信頼の強化という大きな機会を提供します。すでに存在するソリューション(サステナブルな飼料調達、代替飼料、精密農業、再エネ導入、サプライヤー連携プラットフォーム)を活用し、次のステップは大胆な実行と革新的なファイナンスによって、それらを測定可能なインパクトに変換することです。
家禽セクターが進化する中、GHGプロトコルが策定を進める「土地セクターおよび除去ガイダンス(Land Sector and Removals Guidance:LSRG)」は、土地利用変化、インセッティング、炭素除去に関する報告のあり方を再定義しようとしています。これは農業、小売、食品・飲料、消費財といった業界全体に影響を与え、家禽も例外ではありません。
こうした変化に早期に対応する生産者は、規制対応リスクの回避、グリーンウォッシングの防止、そして信頼性の高い気候戦略の実行において優位に立てるでしょう。
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