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GHG は Greenhouse Gas の略であり、地球温暖化の原因となる温室効果ガスのことです。温室効果ガスは、太陽によって温められた地表の熱が宇宙に放出されるのを防ぎ、地球全体を適切な温度に保つ役割を果たしています。
もともと地球に存在してきたものですが、人間活動によって増え過ぎたために、地表の熱が放出されず気温が上昇し続け、地球温暖化が進行しました。
地球温暖化による気候変動が世界各地に被害をもたらし、将来にわたる深刻なリスクが懸念されるなか、世界各国は気候変動枠組み条約のもとGHG排出の削減を目指しています。
1997年に採択された京都議定書およびその後の改定により、次の7種類が対象の温室効果ガスとされています。
温室効果ガスの種類によって、温暖化に与える影響の強さと大気中に残る時間は異なり、排出量が地球温暖化への影響力をそのまま表すわけではありません。そこで、CO2の温室効果を基準とした地球温暖化係数を乗じることで、CO2換算値として表します。
GHG排出量とは、それぞれの温室効果ガスの影響力をCO2に換算した排出量のことを指すのが一般的です。
企業は自らのGHG排出量を把握し、削減目標を定めて取り組むよう強く求められています。企業が長期的な成長を目指すためには、持続可能な脱炭素経営の視点が欠かせません。
特に、気候変動が自社に与えるリスクと機会を評価し、情報開示することが国際的な潮流です。機関投資家やESGファンドなどは、気候変動リスクを含む非財務情報を投資判断の材料として重視しており、透明性の高いGHG排出データを求める声が強まっています。
法令に対応するためにも、GHG排出量の把握と情報開示が必要です。上場企業に対して、2023年度から有価証券報告書でのサステナビリティ情報の開示が義務化されました。
ここでも、国際的に確立された気候変動に関する情報開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った対応が求められています。
このように脱炭素社会への移行を背景に、企業はGHG排出量を「見える化」し、説明責任を果たすことが必要となっています。企業担当者としてまず取り組むべきことは、GHG排出量の把握と目標設定です。
自社のGHG排出量とは、自社の事業活動にともなう全てのGHG排出であり、Scope 1・Scope 2・Scope 3に分類して算出します。各Scopeの定義について定めているのは、GHG排出量の算定と報告に関する国際的な共通基準であるGHGプロトコルです。
今日では環境だけでなく経済やリスク管理の側面からも、サプライチェーン排出量が重要視されています。
サプライチェーンとは、事業活動に関係する原料調達から製品・サービスの利用、廃棄に至る一連の流れであり、サプライチェーン排出量はScope 1+Scope 2+Scope 3で表すことができます。ここでは、各Scopeの内容について解説します。
Scope 1とは、企業や組織からの直接的なGHG排出です。自社工場でのボイラー燃焼など生産プロセスでの燃料の燃焼や、輸送に社用車を使用する場合の、ガソリンなど燃料の燃焼によるCO2排出が含まれます。
また、製造ラインで化学反応によりGHGが発生する場合や、空調設備のメンテナンス時に発生する、意図しないフロンの漏出などもScope1として算出します。自社農園を有する場合には、農地での肥料の施肥や家畜排せつ物の管理などによるGHG排出もScope 1です。
Scope 1は事業者の事業活動の内容によって、事業者ごとに算定項目が変わってきます。
Scope 2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使⽤にともなって間接的に排出されるGHG量です。例として、照明や冷暖房設備の稼働、機械の運転、電気自動車の充電などに使用される電力が該当します。
事業活動で使用する電力は電気事業者から購入されることが多いので、Scope 2の算出はほとんどの事業者に関わる項目です。蒸気ボイラーや冷水・温水を使用した空調を使用している場合には、外部から購入した熱の利用もScope 2に該当します。
Scope 3は、Scope 1・Scope 2以外の全ての間接排出です。Scope 3はさらに15カテゴリに分けられ、カテゴリ1〜8 が上流(原則として購入した製品やサービスに関する活動)、9〜15 が下流(原則として販売した製品やサービスに関する活動)に位置付けられます。
Scope 3のカテゴリ
1 |
購入した製品・サービス |
9 |
輸送、配送(下流) |
2 |
資本財 |
10 |
販売した製品の加工 |
3 |
Scope1・2に含まれない燃料及びエネルギー活動 |
11 |
販売した製品の使用 |
4 |
輸送、配送(上流) |
12 |
販売した製品の廃棄 |
5 |
事業活動から出る廃棄物 |
13 |
リース資産(下流) |
6 |
出張 |
14 |
フランチャイズ |
7 |
雇用者の通勤 |
15 |
投資 |
8 |
リース資産(上流) |
その他(任意) |
Scope 3は、原料調達や廃棄物の処理、製品使用時のエネルギー消費などサプライチェーン全体に関わるものです。Scope3は社外の取引先や製品利用後の段階も対象としているため、データ収集は容易ではありません。
測定を進めるためには、社内の既存データを最大限活用し、重要なサプライヤーとの協力体制を築くことがポイントです。
また、Scope 3のGHG排出量の内訳を把握し、サプライヤーと協力することで、自社だけでは実現できない排出量削減の取組を実施できる可能性が生まれます。
参考:
サプライチェーン 排出量算定の考え方 | 環境省
Scope1、2排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
GHG排出量はGHGプロトコルに基づいた下記の基本式により、排出源ごとの内訳を踏まえて算出します。なお、CO2以外の温室効果ガスは最後に地球温暖化係数を乗じて、CO2に換算して合計します。
GHG排出量 = 活動量 × 排出係数
なお、GHG排出量を把握する過程で、測定・算出する対象範囲や求める精度について迷いが生じることがあるかもしれません。そのような場合は、算定する目的に立ち返って検討することで妥当な解決策が見つかります。
したがって、まずはじめに算定目的を設定したうえで、算定対象範囲をしぼり、事業活動の分類と各Scopeの算定という順序で進めるのが効率的といえます。
活動量とは、事業者の活動の規模に関する量であり、例えば電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量などが該当します。Scope 1・2の算出に必要な数値は、社内の購入記録、給油記録、設備保守記録、検針票、請求書など、実測または定量的なデータから収集します。
活動量は重量や数量などの物理単位で測定・把握することが望ましく、電気やガスの使用量は取引メーター等で確認することも可能です。
Scope 3の測定と算出はサプライチェーン全体にまたがる間接排出が対象となるため、データ収集が難しく、工夫が求められます。購買記録などの社内データの活用に加え、必要に応じてサプライヤーやサービス提供者からの協力を得ることが重要です。
一部では、実測が難しい場合の代替として金額ベースによる推定も用いられますが、価格変動の影響を受けやすく、実際の排出実態と乖離するリスクがあります。
このため、Terrascopeでは金額ベースではなく、重量ベースでの活動量測定を基本とし、算出精度の確保と削減の正確な評価を重視しています。
排出係数とは、活動量あたりに排出されるGHG(温室効果ガス)の量を示す数値です。「排出原単位」と呼ばれることもあります。
たとえば、電気1kWhあたり、貨物の輸送量1トンキロあたり、廃棄物の焼却1トンあたりのGHG排出量などが該当します。
排出係数は、各国政府や国際機関、学術機関、業界団体、企業などが提供するデータベースから選択して使用するのが基本です。信頼性の高い排出係数を用いることで、測定結果の正確性を確保できます。
主な排出係数の参照先には以下があります。
排出係数の選択は、「何のために排出量を測るのか?」という算定目的に応じて慎重に行うことが重要です。たとえば、第三者開示が目的であれば公的データベースの活用が望ましく、削減施策の効果検証が目的であれば、実測に近い係数の使用が推奨されます。
また、排出係数の適用に際しては、入力となる活動量の測定方法にも注意が必要です。同じ電力量であっても、再生可能エネルギーは単価が高くなる傾向があるため、金額ベースでの推定では排出量が過大に見積もられ、削減努力が正しく反映されないケースがあります。このようなリスクを避けるには、信頼性の高い排出係数と、重量ベースの活動量測定を組み合わせることが不可欠です。
Terrascopeでは、こうした課題に対応するため、15種類以上のグローバル排出係数データベースを搭載し、約10万種の排出係数データを保持しています。企業の拠点条件や製品特性に応じた高精度な算定を可能にしています。これにより、再生可能エネルギーの導入や調達先の変更など、脱炭素施策の効果を正確に反映した排出量算定が実現され、経営判断にも活用できます。
GHG排出量の測定・算出は、一連のステップに沿って進めることで、より正確かつ効率的に行うことができます。ここでは、実務担当者が押さえておきたい基本的な5ステップをまとめます。
ステップ1|算出の目的を明確にする
まず、なぜGHG排出量を算出するのか(例:TCFD開示対応、CDP回答、社内目標管理など)、目的を設定します。目的によって対象範囲や精度が変わるため、初期設定が重要です。
ステップ2|対象範囲(Scope)を決定する
Scope 1(直接排出)、Scope 2(電力由来間接排出)、Scope 3(サプライチェーン排出)を区分し、どこまでを算出対象とするかを決めます。Scope3は取引先や消費段階を含むため影響範囲は広いものの、排出量全体の多くを占めるケースも多く、削減インパクトが大きい領域です。そのため、可能な限りScope 3も含めた算定に取り組むことが、実効性のある脱炭素経営において重要です。
ステップ3|活動量データを収集する
Scopeごとに必要な活動量(例:燃料使用量、購入電力量、購買記録、輸送データなど)を収集します。できる限り重量や数量ベースの実測値を用いることが推奨されます。金額ベースでの推定は、価格変動によって算定結果が実態と乖離するリスクがあるため、注意が必要です。現実的に入手困難な場合は、業界データや過去実績を参考に推定します。
ステップ4|排出係数を適用する
収集した活動量に対して、適切な排出係数(環境省DB、IPCCやecoInventのグローバルDB、サプライヤー提供値など)を掛け算します。算出対象や求められる精度に応じて、国別・製品別などの高精度データベースを活用することが重要です。
ステップ5|排出量を算出・集計する
各活動項目ごとに算出した排出量をScope別に集計し、全体のGHG排出量として取りまとめます。必要に応じて、CO₂換算係数を適用し、単位(t-CO₂e)で統一します。
GHG排出量の算出のために、クラウド経由で利用できるSaaS型(Software as a Service)のGHG可視化ツールの導入が進んでいます。
Scope 1・2に加えScope 3の測定および算出では、多部門にまたがる大量のデータを正確に管理することが必要です。従来のExcelや手作業によるデータ収集・転記は非効率で、ミスやばらつきも起きやすく、特にScope 3においては可視化ツールの活用による効果が顕著です。
多くのSaaS型ツールでは、ERPや購買管理システムと連携し、原材料購入量やエネルギー使用量などのデータを取り込み、GHG排出量の算出に活用できます。近年では、あらゆる形式の業務データをそのまま受け取り、自動で排出係数にマッチングする機能や、AIによるデータ補完・統合により、事前の加工や変換を最小限に抑える仕組みも整いつつあります。さらに、TCFDやCDP対応のレポート生成、Scope 1〜3や製品単位のカーボンフットプリント管理、SBTiやFLAG基準に沿った開示支援など、脱炭素経営を包括的に支える機能を持つツールが選ばれる傾向にあります。
こうしたツールの中でも、Terrascopeは、15以上の国際排出係数DBと約10万種のデータセットを搭載し、Scope1〜3の排出量を国別・製品別で高精度に算出。金額ベースではなく重量・数量ベースの実データを用いることで、企業の削減努力が正しく反映される測定が可能です。
Terrascopeと協業し、容器包装の製品CFPを詳細に算出。1か月で16SKUに対応し、従来型LCAと比べて約98%の時間短縮と約70%の精度を達成。さらに、他社製品と比べてGHG排出量が最大88%低いことも確認され、環境配慮型製品設計の成果が明確に可視化されました。
事例詳細ページ:
テトラパック:サステナブルなパッケージングに対する製品カーボンフットプリント(CFP)の算出を従来の方法より98%速く達成
【動画】テトラパックの環境戦略:カーボンフットプリントで加速するサステナビリティ
Scope 3排出量の可視化に取り組む中で、約24万SKUという膨大な商品データをTerrascopeが自動で約2,000カテゴリに分類。全社的なベースラインを算出し、商品カテゴリごとのホットスポット分析まで実施。SKU数の多さという業界課題をテクノロジーで克服し、脱炭素戦略の立案につなげています。
Terrascopeは、排出量の測定から削減シミュレーション、情報開示までを一気通貫で支援する強力なプラットフォームです。
GHG排出量の見える化は、企業が脱炭素経営に取り組むうえでの第一歩です。自社のGHG排出量の全体像を把握することで、優先的に削減すべき対象を特定でき、サプライチェーン上の他事業者と連携した削減策に共同で取り組むことも考えられます。
またGHG排出量の算出は、TCFD提言に基づく気候リスク情報の開示や、投資家・法令への対応にも直結します。
まず自社の事業活動に関わる排出量をScope 1・2・3に分類し、それぞれの内訳を明確にしたうえで、現状把握→排出量算出→情報開示→削減施策の流れを確立することが重要です。
特にScope 3は取引先や消費者に関わるためデータ収集が困難ですが、専門家による支援やSaaS型の可視化ツールの活用で、高精度の算定が可能となります。
情報開示とともに戦略的なGHG削減対策がより一層求められるなか、算定ツールやプロフェッショナルサービスを最大限に活用することが企業の立ち位置を有利にしてくれるでしょう。