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パーム油のCO₂排出の主因は「土地利用変化(LUC)」ーGHGプロトコルLSRGが変える炭素会計

作成者: Terrascopeチーム|2025/07/23

概要

  • 土地利用変化(Land Use Change:LUC)は、パーム油に関わる温室効果ガス(GHG)排出量の最大90%を占める一方、その複雑さから過小計上されがちです。

  • 近く公開予定の「GHGプロトコル・土地セクターおよび除去ガイダンス(Land Sector and Removals Guidance:LSRG)」では、土地由来の排出および炭素除去について、厳格で継続的な年次モニタリングが求められる見通しです。

  • パーム油関連企業は、データギャップの解消とツールの刷新を進め、レピュテーションリスクおよび規制リスクの低減に向けて、今から準備を始める必要があります。

パーム油関連企業が注目すべき重要な動きがあります。待望されていた GHGプロトコル「土地セクターおよび除去ガイダンス(Land Sector and Removals Guidance:LSRG)」 です。

本ガイダンスは、企業の土地関連排出の会計処理を標準化することを目的としており、パーム油業界にとっては 過去最大級の会計ルール刷新 となる見込みです。LSRGは、規模・業種・バリューチェーン上の位置にかかわらず、土地セクターに関連するすべての企業に対してGHGプロトコルの必須要件として適用され、炭素除去を報告する企業にも適用されます。

パーム油生産者にとって、土地利用変化(Land Use Change:LUC)はGHG会計上の最大の盲点です。筆者の経験でも、ある生産者では パーム油関連のGHG排出量の90%超がLUCに起因していました。肥料や排水など他要因の寄与はあるものの、森林破壊、泥炭地の劣化、土壌撹乱に伴う排出の影響は圧倒的で、総排出量を大きく押し上げる主因となっています。

それほど重大であるにもかかわらず、LUC排出は算定の一貫性が最も損なわれやすい領域のひとつです。最大の理由は技術的難易度の高さにあります。企業は、地上バイオマス・地下バイオマス・土壌炭素・泥炭といった複数の炭素プールを考慮し、前土地利用のタイプ、気候帯、火入れの有無などの条件差を反映させる必要があります。要求される精度は高く、大規模かつ経験豊富な分析チームにとっても相応の負荷となり得ます。

 

土地利用変化による排出量が測定しにくい理由

この課題は、主に次の2点によって一層複雑になります。

  1. データの断片化:多くの生産者が依然として手作業のスプレッドシートに依存しており、算定誤差や欠落が生じやすい状況です。さらに、IPCCのデフォルト値と国別の排出係数のどちらを採用すべきかの判断が定まらないケースも少なくありません。
  2. 泥炭地の継続排出:何千年もかけて形成された泥炭地には特有の課題があります。単発の転換イベント(LUC)と異なり、農地化のための排水は数十年にわたる継続的な排出を引き起こします。LSRGでは、こうした継続排出を「土地管理活動」として年次で算定することが求められ、長期的なカーボン・ライアビリティ(負債)となります。


「土地セクターおよび除去ガイダンス」がもたらす会計の変化

今後導入される LSRG では、正確で検証可能な測定が不可欠になります。パーム油生産者にとって、これは 「長期的に有効」かつ「目的に適合」な会計への移行を意味します。

  • 長期的に有効:現在一般的な Excelベース の手法は手作業が多く、複雑な数式や照合作業がヒューマンエラーを誘発しやすい上、排出係数データベースの年次更新も欠かせません。耐久的な会計の観点では、継続的に再現・監査可能なプロセス設計が求められます。
  • 目的に適合:従来の製品単位のカーボンフットプリント算定ツールは、従業員住宅や二次的土地影響などの企業レベル排出をカバーせず、企業会計には不十分です。さらに、除去量の算定・トラッキングに未対応のツールもあります。新ルール下では炭素隔離の継続モニタリングが必要で、土地管理権の喪失や売却があった場合には、過去に計上した除去量の取消が求められます。これに応じない場合、実際の排出を過小計上したと見なされるリスクがあります。

こうした厳格な要件は、抜け道やグリーンウォッシングを防ぐためのものであり、第三者保証(第三者検証)、投資家からの信頼、そしてサプライチェーン全体の信頼性基準を引き上げることにつながります。

パーム油関連企業がいま取り組むべきこと

こうした状況下で何をすべきか、日頃から多くのお客様からご相談をいただきます。結論はシンプルです。

  1. 待たないこと。 信頼性のある GHGインベントリ の構築には時間がかかります。とりわけ社内データガバナンス、サプライヤー教育、システム統合が絡む場合はなおさらです。早期にデータギャップを特定した企業ほど、余裕をもって対応でき、土壇場で慌てずに済みます。

  2. 使用ツールと手法の見直し。 公開済みの最新LSRGドラフトに整合しているか、除去量や継続的排出の年次モニタリングに対応しているかを確認してください。

  3. プラットフォームベースへの移行。 手作業中心の方法は拡張性に欠けます。自動化、監査証跡、スケールするデータ管理を備えたプラットフォームに移行し、データ損失や入力ミスのリスクを最小化しましょう。

LSRG対応は大きな取り組みですが、避けては通れません。 自信を持って乗り切るために、いま着手することが最善のリスクマネジメントです。

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