サマリー
-
サプライヤーエンゲージメントは、信頼性の高い脱炭素化を実現するうえで欠かせない中核要素です。多くの企業にとって排出量の大部分は自社活動ではなくバリューチェーン上に存在するため、その重要性はますます高まっています。効果的なエンゲージメントは、まず「データ収集」「データ精度の向上」「規制・基準への適合」「実際の排出削減」など、目的の違いを明確にし、達成すべき目標を現実的に設定することから始まります。
-
企業はまず、高いインパクトを持つ少数の重要サプライヤーを優先して取り組むことが不可欠です。具体的には、排出への影響が大きいサプライヤー、信頼性の高いデータを提供できるサプライヤー、上流のホットスポットにアクセスできるサプライヤー、あるいは脱炭素化への意欲や能力を備えたサプライヤーが該当します。そのうえで、中長期的には対象範囲を広げ、より多くのサプライヤーの取り組みを底上げしていくことが重要です。
-
最適なアプローチは、短期と長期の二つの時間軸を持つ構造的な取り組みです。短期的には能力の高い戦略的サプライヤーと連携して早期成果を生み出し、長期的にはサプライチェーン全体へ取り組みを広げ、スケール可能な排出削減へとつなげます。
-
エンゲージメントはサプライヤーにとっての共通価値の創造(Creating Shared Value:CSV)を中心に据えて進めるべきです。基盤構築、透明性のあるインサイトの提供、認証やラベリング、優遇条件、低炭素製品の共同開発などを通じて、気候アクションを「負担」ではなく「事業機会」へと転換する必要があります。
-
最終的に、サプライヤーエンゲージメントが成功するのは、明確なステップに沿って進められ、企業とサプライヤー双方に価値が生まれる場合です。Terrascopeは、サプライヤーの参加を容易にし、データ精度を高め、バリューチェーン全体でスケール可能なエンゲージメントを実現します。
はじめに
企業が脱炭素化に取り組み始めると、多くの場合まず直面するのが、自社の排出よりもサプライチェーン上の排出の方が圧倒的に大きいという現実です。
では、「サプライヤーエンゲージメントをどこから始め、どのサプライヤーを優先すべきか?」—これが企業が抱える最も重要な問いのひとつです。
本記事では、この問いに答えるために、Terrascopeがクライアントに推奨しているサプライヤーエンゲージメントを開始する際の最初の3つのステップを紹介します。
1. 明確で現実的な目標設定から始める
「サプライヤーエンゲージメント」という言葉は広く使われていますが、その意味があいまいなまま使われていることも少なくありません。そのため、最初のステップは、「今後12〜24か月間で何を達成できていれば成功と言えるのか」と「今後5〜10年で目指す長期的なゴール」 を分けて定義することです。
この整理ができていないと、サプライヤープログラムの焦点がぼやけ、サプライヤー側の協力を損なってしまうリスクがあります。
以下は、よく見られる代表的な目標例です。同時には成り立ちますが、同じ優先度・同じ強度で同時に追うことは難しく、多くの企業は段階的に取り組んでいます。
- サプライヤーの意識醸成と気候リテラシー向上
- 上流(スコープ 3.1)排出量の精度向上
- 自主基準・規制との整合
- システム全体の脱炭素化の推進
こうした目標の優先順位を明確にすることが、チームが効果的なエンゲージメント戦略を設計し、適切なステップを踏んで実行していくための土台となります。
2. 適切なサプライヤーを優先し、時間をかけて基盤を構築する
多くの企業は、可能な限り多くのサプライヤーと関わろうとしがちですが、広く浅いアプローチでは、得られる成果は限定的になります。本質的な排出削減を実現するには、次の 2つの時間軸 を意識した取り組みが有効です。
- 短期(Short Term)
対応力が高く、排出量の大きいサプライヤーに絞り込むことで、何ができるか共に検証し、トライアルを開始し、その結果の学びを蓄積することが、後により幅広いサプライヤーへ展開する際の重要な基盤となります。
- 長期(Long Term)
脱炭素目標を達成するためには、最終的により広いサプライヤー層へ取り組みを拡大することが不可欠 です。現時点ではエンゲージメントが難しいサプライヤーも、将来的に「意味のある取り組みができる状態」へ引き上げられるよう、準備が求められます。
短期の優先事項を設定する際は、まず 以下の基準を満たす可能性が高いサプライヤーから評価を始めると効果的です。

ただし、現実にはすべてのサプライヤーがこれらの基準を満たすわけではなく、準備不足や意欲の低さが見られる場合もあります。だからこそ、戦略的な選定と、長期的な視点が欠かせません。最初のステップとしては、意欲や能力の高いパートナーと、取り組みやすい領域から着手することが重要です。そして、数年かけて徐々に質を引き上げていくことが、強靭で包括的なサプライヤープログラムを構築する基盤となります。
3. 共通価値を生み出しながらエンゲージメント戦略を策定する
どれほど優れた戦略であっても、サプライヤーが「参加する価値」を感じなければ機能しません。私はよくクライアントに、「サプライヤーエンゲージメントとは、会話の前提を変えることです」とお伝えしています。商業的なメリットやリスク低減が見えると、サプライヤーの参加意欲は大きく高まります。
サプライヤーをプログラムへ巻き込むためには、双方にとって価値となる仕組みづくりが不可欠です。具体的には次のような取り組みがあります。
- 基盤の構築・知識移転
気候リテラシーやシステム構築を支援し、提供されたデータに対しては透明性の高いフィードバックを返す。 - 信頼性のある認証やラベリング
- 積極的に取り組むサプライヤーへの優遇措置
契約条件、優先サプライヤーとしての位置づけ、小売業の場合は棚配置やマーケティング支援にまで発展させることも可能。 - 低炭素製品の共同開発
共同投資・共同開発により、サプライヤーのリスク軽減や資本アクセス向上につながる。 - 業界横断の協働
共通の期待値やデータ要求の標準化により、全体の推進力を高める。
購買側の役割は、サプライヤーを促し、支援することです。排出削減の主体はサプライヤー側にあるべきであり、この構造がプログラムの信頼性と継続性を担保します。つまり、責任を一方的に押し付けるのではなく、脱炭素に前向きなパートナーが成功できる環境を整えることこそが本質です。

4. まとめ
サプライヤーエンゲージメントを「目指す」から「成果」へと進めるには、以下の3つの基盤が不可欠です。
- 明確な目標設定
- 戦略的な優先順位づけ
- 共通価値の創造
Terrascopeは、サプライヤーの参加をスムーズにし、データ収集の精度を高め、バリューチェーン全体でエンゲージメントをスケールさせることで、こうした取り組みの実装を支援します。
土地セクター・炭素除去ガイダンス(LSRG)など新たな規制への対応でも、初めてのプログラム構築でも、鍵となるのは 明確で焦点を絞った、双方に価値を生む進め方 です。
Terrascopeでは、意図を実際のインパクトにつなげたい企業の皆さまに、バリューチェーンに関する無料アドバイスセッションを提供しています。