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【いまさら聞けない】CBAMとは?経営判断に影響する「炭素関税」の基本と対応の全体像

作成者: Terrascopeチーム|2025/13/20

 

目次

  1. CBAMとは?「炭素関税」で企業が知るべき全体像
  2. CBAM対象製品は何?排出量計算と対応方法
    1. CBAMの対象製品とスケジュール
    2. 排出量計算と対応方法
  3. CBAM対応ステップ:経営層が指示すべき全体プロセス
  4. CBAMのコストへの影響は?関税換算で経営判断
  5. CBAMとCDP/SBT/ISSBの関係性を整理してみた
  6. よくあるCBAM質問:対応意思決定でよく迷う10のQ&A
  7. まとめ:脱炭素と国際競争力を両立するためのCBAM対応戦略

 

 

CBAMとは?「炭素関税」で企業が知るべき全体像

CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism:炭素国境調整措置)は、企業の温室効果ガス(GHG)排出への責任を国境を越えて問う新たな仕組みであり、グローバルな取引に関わる企業にとって避けては通れない規制です。

EUが導入を進めるカーボンプライシングの一つとして、CBAMはEU域外からの輸入品に対して、その製造過程で排出された炭素量に応じた課金、いわば「炭素関税」を課すことで、域内産業との競争条件を公平に保とうとするものです。

背景には、EUが掲げる「2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」という目標があります。2030年までに1990年比で少なくとも55%の削減を実現するという中間目標の達成に向け、排出の“隠れ蓑”となるカーボンリーケージ(規制の緩い国への生産移転)を防ぐことが目的です。

CBAMでは、EU排出権取引制度(EU-ETS)と同等の炭素コストを輸入品にも課すことで、EU内外を問わず実質的な排出量削減を促します。EU-ETSは、企業に排出枠を割り当て、不足分を市場で購入できる制度で、すでにEU域内で広く適用されています。

CBAMの制度は段階的に導入されており、具体的なスケジュールや対象製品の詳細については、このあと章を改めて詳しく解説します。

CBAMは単なる貿易ルールではなく、「環境対応の有無」が今後のビジネス継続に直結する時代を象徴する制度です。とくにEUと輸出入取引のある企業にとっては、排出量管理の体制整備と報告・算定への理解が不可欠となっています。

参考: EU 炭素国境調整メカニズム (CBAM)の解説(基礎編)| Jetro

 

CBAM対象製品は何?排出量計算と対応方法

CBAMへの対応で重要なのは、自社製品が対象となるかどうかを正確に把握し、排出量に応じたコスト負担に備えることです。まず確認しておきたいのが、対象品とGHG排出量の算出方法です。

CBAMでは、EU域内に製品を輸入する場合に、その製品の生産に関するGHG排出量に応じたCBAM証書を購入・納付することが求められます。よって、自社の製品が対象に含まれる場合、CBAMにともなうコストを把握することが重要です。

ここでは、CBAM対象製品と排出量計算について説明します。

CBAMの対象製品とスケジュール

CBAM(炭素国境調整メカニズム)の対応でまず押さえるべきは、「いつ」「どの製品が」「何をすべきか」という全体の流れです。EUは段階的に制度を導入しており、2023年10月に始まった移行期間(2023〜2025年)では、対象製品の輸入業者に対して四半期ごとの排出量報告が義務付けられました。

対象となるのは、セメント、鉄鋼(ねじやボルトなどの一部下流品も含む)、アルミニウム、肥料、水素、電力の6品目です。いずれも生産時のGHG排出量が多く、EU域内産業との公平性確保の観点から優先的に選定されています。

2025年3月末には、EUが「CBAMレジストリ」の認可モジュール(Authorised Declarant Module:ADM)を正式に稼働させ、EU域内の輸入業者による「認定CBAM申告者」登録の受付が開始されました。

そして2026年1月からは、これらの6品目に対して排出量に応じた「CBAM証書の購入・納付」が義務化されます。これにより、企業は単なる報告から一歩進み、排出量を金銭的に評価・対応する段階に入ることになります。

今後、対象製品はEU-ETSと連動して拡大される可能性も高く、早期に体制を整えておくことが求められます。

排出量計算と対応方法

対象製品をEU域内に輸入する場合に、その製品の体化排出量の報告が求められます。体化排出量とは、対象製品の生産に関する直接排出量と間接排出量の合計(CO2換算)です。

  • 直接排出量(スコープ1): 対象製品の生産工程で直接排出されるGHG、および対象製品の生産工程で消費される温冷熱の生産に伴う排出量
  • 間接排出量(スコープ2): 対象製品の生産工程で消費される電力の発電に伴う排出量を指します。

排出量の計算には正確性が求められ、認定検証者による検証報告書が必要です。体化排出量の算出は、電力以外のセクターでは実際の排出量に基づく算出とデフォルト値を使用する算出の2つの方法があります。

実際の直接排出量を算出できない場合はデフォルト値の使用が認められていますが、実際の排出量に基づく算出では、GHGプロトコルなどの国際的な基準を根拠にします。

GHGプロトコルによる排出量の算定式は次のとおりです。

  • GHG排出量=活動量(使用燃料量や電力消費量など)× 排出係数

また、企業の算定を支援するため、グリーン・バリューチェーン・プラットフォームねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドラインなどのツールやガイドラインが提供されています。必要に応じて活用してください。

CBAM対応ステップ:経営層が指示すべき全体プロセス



CBAMへの対応は、判断を誤ればEU市場への輸出機会を失うリスクがあるため、企業の経営層が主導して全社で取り組むべき重要課題です。まず指示すべきは、自社がEUへの輸出でCBAM対象製品を取り扱っているかの確認です。

次に、バリューチェーン全体にCBAMが与える影響を調査し、取引先や原材料の選定にまで及ぶリスクを把握する必要があります。ここで重要なのが、自社の立ち位置です。

自社が製造業者である場合、自社工場での生産に伴う直接排出(スコープ1)および購入電力による間接排出(スコープ2)のデータが必要になります。

一方、自社が輸出者であり、製品自体は他社が製造している場合、その製品に含まれる体化排出量の正確な把握が求められます。このためには、サプライヤーからスコープ1・2の排出データを入手し、場合によってはスコープ3としての取り扱いで評価・開示する必要があります。

いずれの場合も、GHGプロトコルなどに準拠した算定基準を採用し、輸出製品ごとの体化排出量を正確に算出する仕組みを構築しましょう。現場部門との連携も不可欠であり、社内の排出データを集約・管理する体制を整備しなければなりません。

さらに、EU域内の取引先や輸入者と連携し、必要なレポート体制と申告準備を主導することも重要です。特に2026年以降の本格適用を見据え、認定CBAM申告者との情報共有や、CBAM証書の納付体制の整備が求められます。

経営層の明確な指示のもと部門横断でCBAM対応を推進することで、規制リスクを最小限に抑え、持続的なEU市場へのアクセスを確保することが可能となるでしょう。

 

CBAMのコストへの影響は?関税換算で経営判断

CBAMは、企業の製品価格や利益率に直接影響を及ぼすため、経営判断に直結する新たなコスト要因です。

CBAMでは、EU域外から輸入された対象製品の生産に伴い排出されるGHGの量(体化排出量)に応じ、EU-ETSの排出枠価格に相当する価格でCBAM証書の購入が求められます。

体化排出量は、工場など施設単位ではなく製品ごとに算出され、単位は製品1トン当たりのCO2換算排出量(トン)です。

たとえば、EU-ETSの直近の炭素価格が1トンあたり80ユーロである場合で試算してみましょう。体化排出量が平均約2.1トンの鉄鋼(熱延コイル)を輸出する場合、1トン当たりにかかるコストは次の計算で求められます。

2.1トン × 80ユーロ = 168ユーロ(約2万7千円)/トン

製品の体化排出量が多ければさらに高額になり、価格競争力に大きな影響を与える可能性があるという認識が必要です。

このようなコストの可視化は、製品設計・原料選定・調達先の見直しを含む中長期的な戦略の再構築を求められることを意味します。GHG排出量の少ない原料や製造プロセスへの移行は、財務的なインパクトを和らげる有効な手段です。

財務部門には、炭素価格の市場変動リスクや、証書購入費の予算反映を主導することが求められます。また経営層と連携して、バリューチェーン全体への影響など多角的なシナリオを分析し、コスト管理体制を構築することが必要です。

 

CBAMとCDP/SBT/ISSBの関係性を整理してみた

CBAMへの対応は、企業の排出量管理や情報開示の信頼性にも関わるため、CDP・SBT・ISSBといった開示基準や枠組みとの整合性も重要です。

CBAMはEUが導入する法規制に基づいた制度であり、対象製品の輸入時に排出量に応じたコスト負担を求めるものです。一方、CDP・SBT・ISSBなどは、企業の自発的な気候関連情報の開示や目標設定を支援するフレームワークです。

両者は性質が異なるものの、企業の排出量管理や開示体制において密接に関係しています。たとえば、CBAM対応ではGHG排出量の正確な算定と報告が求められますが、算定の際に準拠するGHGプロトコルはCDP・SBTにも共通する基準です。

CDPやSBTへの報告内容との整合性が重要であることはもちろん、CDPやSBTに対し既に資料を提出している場合には、その内容の活用も可能です。

また、ISSBが定める気候関連財務開示基準(IFRS S2)では、炭素コストなどの財務影響を定量的に開示することが求められ、CBAMで発生する排出コストはその対象となります。

今後は、制度対応と開示・目標設定の両輪による、戦略的な経営判断が不可欠です。

関連ページ:
【いまさら聞けない】CDPとは?環境経営リーダーが押さえておくべき開示基準と実務対応のポイント
SBTとは?認定取得メリットや日本企業の対応状況を解説
SSBJとは?開示基準や義務化の対象と適用時期の見込みについて解説

参考:
CDP
第1部 SBTの概要
SSBJ サステナビリティ基準委員会

よくあるCBAM質問:対応意思決定でよく迷う10のQ&A

CBAMは法規制としての影響が大きく、対応の遅れは事業リスクにつながるため、現場で生じる疑問を早期に解消し、具体的に動き出すことが重要です。ここでは、CBAMに関して現場の担当者が直面すると考えられる疑問とその回答をご紹介します。

Q1 CBAMの報告申告者とは?CDPに対応しないリスクとは?
EUへの対象製品(鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素など)を輸入するEU域内の輸入事業者またはその代理を務める間接通関業者です。CBAM登録簿に登録し報告義務を負う者を指します。

Q2 移行中と本格適用される場合の違いは?
CBAMは2023年10月から2025年末までが移行期間で、この間は対象製品の体化排出量の報告義務のみが課されます。本格適用が始まる2026年以降は、排出量に応じたCBAM証書の購入・納付が必要になります。

Q3 CBAMに対応しない場合の罰則は?
CBAM報告書の提出義務を怠った場合や報告書不備の訂正対応を取らなかった場合には、未報告の体化排出量に応じた罰金が報告申告者に科されます。輸出事業者は、申告者が報告書を作成するために、体化排出量の正確な情報を提供できることが必須です。

Q4 日本のGX排出量取引制度(GX-ETS)との関連性は?
GX-ETSは国内の大規模排出事業者が対象で事業所単位での対応となりますが、GHG排出量の正確な測定と把握が求められる点では共通します。なお、CBAMは製品単位の排出量を求めるため、プロセスや部品ごとのデータ管理が必要です。

Q5 中小企業もCBAM対応が必要?
現時点では、EUへの対象製品輸出があれば日本の中小企業でもCBAM対応が必要です。今後は輸入量50トン/年以下の事業者は報告義務が免除される方向で、2025年後半にCBAMの全面的な見直しを行うとされています。

Q6 少量の輸入もCBAM対象?
対象製品であっても、輸入する1貨物につき150ユーロを超えない製品やEU域外からの旅行者の個人的な荷物に含まれ、150ユーロを超えない製品はCBAMの対象となりません。

Q7 将来的に何が対象製品になる?
将来的にはガラス・セラミック・紙パルプ・バルク化学品など、EU-ETSで既に規制対象となっている全産業セクターに拡大される見込みです。また川下製品や、電力などの間接排出(スコープ2)も対象となる方向で検討されており、2026年以降の法改正で決まります。

Q8 スコープ3は含まれる?
現時点のCBAMでは、製造工程で発生する直接排出(スコープ1)と、購入電力に伴う間接排出(スコープ2)のみが報告対象とされています。原材料調達や輸送などの上流・下流で発生する排出(スコープ3)は、CBAM制度上の対象外です。

ただし、自社が製造業者ではなく、完成品を他社から仕入れてEUに輸出している場合には、その製品に含まれるスコープ1・2排出量の把握が求められます。つまり、サプライチェーン上の排出データを取得・管理する必要があり、実質的にはスコープ3への対応力が問われることになります。

そのため、スコープ3は制度上の対象外とはいえ、輸出企業にとっては極めて重要な情報領域といえるでしょう。

Q9 体化排出量を検証する認定検証者とは?
認定検証者は、EU各加盟国の国家認定機関(NAB)によって選定・登録されます。体化排出量の算定・報告が正しいことを裏付ける第三者専門家として、製造現場での現地証拠確認や測定データの裏付け、申告書と検証報告の整合性をチェックする役割を担います。

Q10 排出量算出ではデフォルト値を使える?
電力以外の対象製品で、自社で正確な排出量データを取得できない場合や、輸出者から必要な情報が得られない場合に限り、EUが定めたデフォルト値を使用することが認められています。ただし、信頼できるデータ提出が原則です。

 

 

まとめ:脱炭素と国際競争力を両立するためのCBAM対応戦略

気候変動対応が国際競争力や企業評価に直結する時代において、CBAMは「貿易×脱炭素」への対応を問う重要な要素です。排出量に応じたコストが発生し、対応の遅れはビジネス機会の逸失や取引先からの信頼低下、投資先としての魅力喪失を招きかねません。

まずは、自社が扱う製品がCBAM対象に該当するかを確認したうえで、スコープ1・2の排出量可視化と算定体制の整備を進めることが第一歩です。

また、自社で製造していない場合でも、サプライヤーとの連携による排出データの収集・確認が不可欠です。輸出者であっても「排出量を把握していない」では通用しない時代がすでに始まっています。

いまこそ、サプライチェーン全体を見渡した対応に踏み出し、脱炭素経営を国際取引の競争優位に転換していく視点が求められています。