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脱炭素経営

2025年版 CSO向け実践ガイド:スコープ3排出量の最新動向と戦略的対応

単なるコンプライアンスを超え、2030年の気候目標を達成し、企業成長を実現したいCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)のために最新動向と実践的アプローチをご紹介します。

報告義務から経営戦略の中核へ

かつてのサステナビリティ担当の役割は、事業運営に伴う排出量の管理や年次報告書の作成が中心でした。しかし現在では、CSOは戦略的意思決定の中心に位置し、調達、製品設計、バリューチェーンパートナーシップ、成長戦略などあらゆる分野に関わる必要が高まっています。

この変化の鍵を握るのが「スコープ3排出量」です。

スコープ3は測定/管理が難しい一方で、最も大きなビジネスインパクトをもたらす可能性があります。たとえ自社がスコープ3の開示を法的に求められていなくても、顧客がその対象であれば、自社のサプライチェーンや製品は顧客の関心事項となります。
つまり、自社が顧客のバリューチェーン上のホットスポット(排出量の集中領域)となっている場合、スコープ3の管理能力は差別化要因になり得るのです。

私たちはスコープ3の課題ばかりを語りがちですが、スコープ3への取り組みが生み出す機会についてもっと議論すべきです。

スコープ 3が真に重要になる領域

スコープ3排出は、通常ごく一部の主要カテゴリに集中します。業界によって異なりますが、次の2つはよく見られるホットスポットです。

  • 購入した製品やサービス : 原材料からパッケージまで、ビジネスが購入するあらゆるものに含まれる排出量。対処するには、サプライヤーとの連携や調達戦略の見直しが必要です。

  • 販売製品の使用 - 顧客が製品を使用する際に将来発生する排出量(例:エンジンの燃料消費、家電の電力使用)。これは収益と直結する排出源です。

排出量の所在を把握することは、調達、製品設計、顧客価値の転換につながる重要なインサイトをもたらします。

スコープ3排出量についてどこから始めるべきかお悩みですか?

Terrascopeは、排出ホットスポットの特定から、実行可能なアクションの設計、レポート対応まで一貫してサポートします。

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スコープ3を戦略的優位に変えるための3つのアプローチ

1. スコープ3を戦略の柱に据える

環境配慮の一環として、社員食堂での堆肥化プログラムのような“善意から始まる取り組み”に注目しがちですが、本当にインパクトを生みたいのであれば、ビジネスの本質に直結する分野に集中すべきです。

たとえば、ある機器メーカーでは、製品が販売された後に使用される過程で発生する排出量が、スコープ3の中でも最大のホットスポットであることが判明しました。この発見をきっかけに、スコープ3は単なる報告義務ではなく、製品イノベーションの推進力として再定義されました。サステナビリティチームは製品開発担当と連携し、エネルギー効率の改善や気候目標との整合を図りながら、顧客に新たな価値を提供する取り組みを進めています。

スコープ3を製品設計や調達戦略などの意思決定プロセスに組み込むことで、脱炭素と成長の両立を実現できます。

2. パレートの法則(80/20ルール)を適用する

スコープ3の15カテゴリーすべてに細かく対応しようとすると、リソースが分散し、かえって実質的な成果が出ない恐れがあります。あるCSOは「それでは“忙しいだけの愚か者(busy fool)”になる」と語っています。完璧なデータ収集を目指す必要はありません。

重要なのは、排出量の80%を生み出している上位20%のカテゴリーを特定し、そこに注力することです。

たとえば、食品業界では上流の農業活動がスコープ3排出の大半を占めるケースが多く見られます。この分野に焦点を当て、適切なツールの導入やサプライヤーとの連携体制を整えることで、チームに過度な負担をかけることなく、実質的な進捗を実現できます。

このように重点を絞るアプローチは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による開示義務への備えにもなり、「分析まひ(analysis paralysis)」を防ぐことにもつながります。

3. データをストーリーとして活用する

ある大手食品メーカーでは、上流の農業活動が主要な排出源であることが判明しました。これを受けて、同社は主要サプライヤーが現地で排出削減を実施できるよう支援するインセンティブ型のサプライチェーン支援プログラムを立ち上げました。結果として、原材料1単位あたりの炭素強度は着実に低下しました。

一方で、売上の拡大により総排出量は増加。数字だけを見れば“失敗”と誤解されかねませんが、CSOは排出原単位の改善という本質的な進展に注目し、その背景や意義、さらなる変革の必要性を含めたストーリーとして社内外に伝えました。

このように、カーボンデータは単なる規制対応のための数値ではなく、取締役会、顧客、投資家と対話するためのストーリーテリングツールとなり得ます。

CSOに求められる新しい役割

2030年の気候目標の達成は、もはや「サイドプロジェクト」ではありません。これは企業にとって、成長戦略の中核を担う最重要課題です。
CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)は、もはやコンプライアンスの責任者にとどまらず、リスクを見極め、製品戦略を方向づけ、市場機会を創出する経営のリーダーとしての役割を果たすべき存在です。

スコープ3排出量は、ただの負担ではありません。どこに価値を見出し、誰と連携し、何に投資すべきかを示す「価値創出の地図」です。

今こそ、排出ホットスポットに注目し、信頼性あるデータと実績をもとに、戦略的なストーリーを構築することが求められています。
サステナビリティとビジネス成長を両立させるCSOこそが、2030年の目標達成だけでなく、サステナブルな未来を切り拓くキーパーソンとなるでしょう。

関連記事:
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Lia Nicholson
Terrascope サステナビリティ部門責任者

 

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