- 農場レベルでの排出量算定は、農業にともなう温室効果ガス(GHG)の排出を正確に測定・管理・削減するために欠かせません。これは、スコープ1やスコープ3、さらには製品単位での報告にも活用できます。
- Terrascopeの手法は、一次データの収集、IPCCに準拠したモデリング、目的に応じた算定アプローチを組み合わせることで、排出のホットスポットを特定し、SBTiのFLAGガイダンスとの整合を実現します。
- 綿花や酪農、コーヒーでの支援事例は、農場レベルでの排出量管理が拡張性や自動化に優れており、複雑なサプライチェーンでも効果的な脱炭素と信頼性のある気候対応を実現できることを示しています。
はじめに
サステナビリティとカーボン開示の基準が進化するなかで、食品、農業、繊維産業の企業には、農場活動に起因する温室効果ガス(GHG)排出量を正確に測定することが、これまで以上に求められています。特にスコープ1およびスコープ3の算定、さらにはGHGプロトコルの土地利用・除去ガイダンスや、SBTiのFLAGターゲット設定など新たな枠組みへの対応が必要とされています。
Terrascopeは、こうしたニーズに対応するために、実践的で柔軟に展開可能なアプローチで農場レベルの排出量算定をサポートしています。企業やそのサプライヤーから得られる一次データを、バリューチェーン全体で活用可能な排出係数へと変換します。
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なぜ農場レベルの排出量が重要なのか
農業関連の多くの企業にとって、農場での活動(スコープ1およびスコープ3)は、総排出量の70%以上を占めるケースもあります。それにもかかわらず、現在多くの企業が使用しているのは、作物・農法・地域による違いを反映しない「デフォルト値」や地域平均の排出係数です。
農場レベルでの算定により、企業は次のことが可能になります。
- 排出量の多いホットスポットをより高精度で特定
- サステナブルな取り組みを、信頼性のあるデータで裏付け
- SBTi FLAGやカーボン除去のガイダンスなど、最新の基準に準拠
- サプライチェーン関係者とのターゲットを絞った対話を促進
このアプローチは、綿花、カカオ、コーヒー、パーム油、米、大豆、乳製品といった複雑なサプライチェーンを持つ商品に特に有効です。
関連ページ:サプライチェーン排出量とは?算定方法や義務化の流れ、取組み事例を解説
農場レベルの排出量算定とは?
農場レベルでの算定では、各農場における農業活動によって発生するGHG排出量を評価します。具体的には、以下のような要素が考慮されます。
- 土地利用の変化
- 肥料・農薬の使用量
- 土地管理や灌漑方法
- 家畜の数、飼料の種類、糞尿の管理
- 農場内でのエネルギー使用 など
多くの場合、「農場での生産開始から出荷まで(cradle-to-farm-gate)」という評価範囲を取り、原材料が農場や牧場から出荷されるまでの排出量をカバーします。
この手法により、生産者もバイヤーも、実際の農業慣行に基づいた排出量を算出でき、汎用的な推定値ではなく、リアルな排出量を把握できます。
対象範囲の明確化から排出係数へ:Terrascopeのアプローチ
Terrascopeの農場レベル算定は、以下のステップで構成されます。
1. 対象範囲の明確化とニーズ評価
まず、クライアントが生産者なのか、買い手や農家を取りまとめる事業者なのかを確認し、すでに活用可能な農場データを保有しているかどうかを把握します。評価項目には以下が含まれます。
- 対象農場の数と種類
- データの有無・形式
- カバーする排出カテゴリー(土地利用、肥料、家畜など)
- 一次データの提供・収集の準備状況(二次データとの使い分け)
2. データ収集
農家や地域の担当チームから活動データを集めるために、Terrascopeは標準化されたテンプレートと、専門家による収集ガイドを提供します。
また、小規模農家のネットワークなど、直接データを取得するのが難しい場合には、投入された資材の割合や、農業の一般的な前提条件に基づいた推定値を用いて補完します。
3. 排出モデリング
Terrascopeでは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のガイドラインに沿った手法を用いて、さまざまな排出源を算定します。たとえば、合成肥料の使用や牛の腸内発酵によるメタン排出などが対象です。これにより、地域や農法に応じた排出係数を算出することができ、たとえば「1kgの綿花」「1リットルの牛乳」「1kgの米」ごとのCO₂換算排出量(kg CO₂e)といった形で、具体的な数値を得ることが可能です。
4. 統合と報告
得られた排出係数は、スコープ1やスコープ3の排出量報告、製品ごとのカーボンフットプリント算定、そしてSBTiのガイドラインに沿った削減目標の立案などに、そのまま活用できます。また、排出量をグラフや図で可視化することもできるため、サプライヤーとの意見交換や脱炭素戦略の立案にも役立ちます。
関連ページ:スコープ3(Scope 3)排出量の算定方法と課題
農場レベルでの排出量把握、始めませんか?
Terrascopeでは、一次データに基づいた排出量算定を通じて、SBTi FLAGやスコープ3報告に対応した脱炭素戦略を支援しています。
実際の導入事例:綿花から酪農まで
Terrascopeは、さまざまな農業システムや作物種にわたって、多くのクライアントを支援してきました。以下はその一例です。
- Prime Cotton:綿花栽培面積4万5,000ヘクタール・7,000戸の農家
繊維大手のPrime Cottonは、Terrascopeと連携し、数百の農場における排出量を算定しました。排出のホットスポットとして特に注目されたのは、肥料の使用、灌漑、農機具の使用などです。農家単位のデータが一部不足している場合には、類似する農場のデータをもとに推定値を補完的に用いました。最終的に得られたデータは、製品ごとのカーボンフットプリントに、綿花の生産に由来する実際の排出量を反映するために活用されました。 - Greenfields:1万9,000頭の乳牛
Greenfieldsは大規模な酪農ネットワークを運営しており、腸内発酵や糞尿由来のメタン排出量を把握する必要がありました。Terrascopeは、家畜の種類・年齢構成、給餌内容、糞尿の処理方法などのデータをもとに、高精度で排出量を推計。この結果は、社内の報告業務だけでなく、脱炭素の取り組みにも活かされています。
事例詳細:Greenfields: 乳製品バリューチェーンにおける持続可能性に資するメタンと排出のインサイトを発見
おわりに
農場レベルでの排出量算定は、スコープ3の上流工程やスコープ1の排出削減を目指す企業にとって、極めて有効な手段です。また、サプライヤーとの建設的な関係構築や、気候変動に関する報告の信頼性向上にもつながります。
Terrascopeの体系的なアプローチを活用することで、企業は高品質な一次データ、科学的根拠に基づく算定結果、そしてサステナビリティ戦略を将来にわたって強化するためのツールを手に入れることができます。
自社のサプライチェーンでこの仕組みを活用するにはどうすればよいか、ご興味があればぜひお問い合わせください。

Terrascope 脱炭素戦略スペシャリスト