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【図解】CDP・SBT・ISSB・ISO・GHGプロトコルなど国際基準の違いと使い分けを解説

作成者: Terrascopeチーム|2025/47/11

 

目次

  1. 排出量可視化を始める企業が最初に迷うこと
  2. 【図解】気候関連の国際基準・フレームワークの全体像
  3. GHGプロトコルとISO規格はすべての基準の共通基盤
  4. TCFD、CDP、SBTi、ISSB、CSRDの役割・位置付けと義務化
  5. 目的別:企業が実現したいことに対応する国際基準のマッピング
  6. まとめ:国際基準を戦略に取り込み、信頼ある環境情報発信を

 

 

排出量可視化を始める企業が最初に迷うこと

温室効果ガス(GHG)排出量の可視化に取り組み始めた企業が、最初につまずきがちなのが「何から始めればいいのか」という基本的な問いです。制度名やスコア、報告の義務ばかりが先に目に入り、「CDPに回答すべきか?」「SBTを取得するには?」と、手段が目的化してしまうケースも少なくありません。

しかし、本来の出発点は「なぜ排出量を測定するのか」「誰に向けて、何のために情報を開示するのか」という目的の明確化にあります。たとえば、投資家に向けて事業戦略を示すための開示なのか、取引先から求められる製品単位の環境情報なのか。目的によって対応すべき国際基準や制度はまったく異なります。

制度やスコアはあくまで手段であり、自社の目標に合った国際基準を選び、段階的に取り組むことが重要です。本記事では、よく使われる国際的な基準・フレームワークの役割と使い分けを、「目的別」に整理してご紹介します。

【図解】気候関連の国際基準・フレームワークの全体像

ここでは、気候関連の国際基準・フレームワークを体系的に示した図解を用いて、全体像を整理します。図は上下二層に分かれており、下段は「排出量の測定・算定の基盤」、上段は「目標設定」「開示」「財務報告との統合」という3つの活用フェーズで構成されています。

それぞれの基準やフレームワークの詳細は、次章以降で解説しますので、全体の構造を捉える羅針盤として、まずは下図を確認してください。

GHGプロトコルとISO規格はすべての基準の共通基盤

気候関連のあらゆる制度やフレームワークに共通する「土台」となるのが、GHGプロトコルとISO規格です。

GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)は、排出量の測定・分類に関する国際的な標準であり、企業がスコープ1・2・3の排出量を一貫した枠組みで算定・報告するための基盤となります。多くの企業が採用する脱炭素プラットフォームや、後述するSBTi・TCFDなどの制度も、前提としてGHGプロトコルをベースとしています。

一方、ISO規格(たとえばISO 14064、14067など)は、GHGプロトコルで定義された考え方に基づき、「どのようにして信頼性をもって測定・報告・検証するか」という実務レベルの標準を提供しています。ISOはあくまで手法や実施手順を定める技術規格であり、国や業界を問わず、すべての企業が共通して活用できる中立的な基盤です。

このように、GHGプロトコルとISOは、どの制度を活用するにしても避けて通れない前提知識といえます。自社の目的に応じてTCFDやSBTiなどを選択する前に、まずはこの基盤を正しく理解することが重要です。

詳細は以下の記事をご覧ください。

関連記事:

TCFD、CDP、SBTi、ISSB、CSRDの役割・位置付けと義務化

図解で示した通り、TCFD、CDP、SBTi、ISSB、CSRDといった国際的なフレームワークや基準は、それぞれ「目標設定」「開示」「財務情報との統合」といった異なるフェーズを担っています。これらの違いを理解せずに制度名だけを追うと、自社が本当に対応すべきものを見誤る可能性があります。本章では、それぞれの役割や義務化の状況を整理し、企業がとるべき対応の優先度を明らかにします。

たとえば、サントリーグループはSBTiの「1.5℃目標」で認定を取得し、TCFD提言に沿った情報開示を実践。さらにCDPにおいて気候変動・水セキュリティの両分野でAリストに選定されるなど、複数の国際基準を戦略的に活用しています。

参考:

名称

フェーズ

役割・位置づけ

義務化(2025年時点)

SBTi

目標設定・開示

GHG排出削減の「科学的根拠に基づく目標」設定を行い、第三者が妥当性を認定する仕組み。スコープ1〜3が対象。

義務ではないが、投資家や顧客へのアピールになることより、対応企業が急増中。CDPのAスコアを獲得するにはSBT認定必須。

SBTi FLAG

目標設定・開示

森林・土地利用・農業に関するFLAGセクターの排出量と削減目標を評価するSBTiのサブフレームワーク。

SBT申請時にFLAG対象企業であれば必須。対象は、指定のセクター(森林・紙製品、食品・飲料加工、タバコなど)に属する企業や、FLAG関連の排出が企業全体の20%以上を占める企業。

TCFD

開示

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)。気候関連のリスクと機会を「どう開示するか」を示すフレームワーク。

2025年現在、プライム上場企業は対応必須。2023年にTCFDの役割はISSBに統合することが決定された。今後は、プライム上場企業はSSBJ基準で対応が求められる。

CDP

開示

TCFDに沿った内容を質問票形式で可視化し、8段階でスコア化する仕組み。気候変動だけでなく、水資源、森林も対象。SBTiの目標提出にも使われる。

任意対応だが、企業のスコアは開示され、世界中の投資家に利用されている。

ISSB
(IFRS S2)

財務報告との統合

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したサステナビリティ情報開示の国際基準の1つがIFRS S2号「気候関連開示」。TCFD提言を基盤とし、財務報告と一体化した国際的な開示基準。

適用対象の企業を決定するのは各国の規制当局。日本はSSBJが担う。

SSBJ
(日本のISSB対応)

財務報告との統合

日本国内におけるISSB導入に向けたサステナビリティ開示基準の策定機関。IFRS S2などの日本版を整備。

2027年3月期より、プライム上場企業を対象に時価総額に応じて段階的に義務化される予定。

CSRD/
ESRS

財務報告との統合

CSRD(企業サステナビリティ報告指令)はEUが導入したサステナビリティ情報の開示を義務付ける法律の枠組みESRSは、CSRDに基づいて、企業がどのような情報を、どのように開示すべきかを具体的に定めた基準。開示範囲はISSBより広範かつ詳細。

2024年から大企業に段階的に適用。日本企業もEU拠点を通じて対象となる場合あり。

各制度の詳細や、企業が実務でどう対応すべきかについては、以下の記事で詳しく解説しています。自社の目的や対応フェーズに応じて、ぜひご参照ください。

関連記事:

目的別:企業が実現したいことに対応する国際基準のマッピング

企業が脱炭素に取り組む理由や立場はさまざまです。本章では、「製品の環境情報を顧客に提示したい」「科学的に妥当な目標を立てたい」「スコアで評価されたい」など、実際の企業活動に即した目的に対応する国際基準・フレームワークを一覧で整理しました。最適な対応策を選ぶヒントとしてご活用ください。

企業の具体的な目的

対応する基準

補足説明

取引先や顧客に向けて、製品の環境負荷を定量的に示し、調達先としての優位性をアピールしたい

ISO 14067

製品のカーボンフットプリント(CFP)を国際基準で算定・開示。環境配慮調達やB2B入札での加点要素にも。

組織のGHG排出量を国際的に整合の取れた形式で信頼性高く算定・報告し、第三者検証も受けたい

ISO 14064シリーズ

スコープ1~3すべての排出量を一貫した算定・検証が可能。ISO 14064-3で第三者による検証を標準化。

中長期の脱炭素戦略を社内外に明示し、「本気の取り組み」として科学的に裏付けされた目標を示したい

SBTi(FLAG含む)

GHG排出削減を可視化し、目標設定の信頼性を担保。グローバル企業との取引条件になるケースも増加中。

競合他社との差別化を図るために、自社の環境配慮をスコア化し、評価レポートとして活用したい

CDP

TCFDに基づいた質問票に回答し、スコア付きレポートを取得可能。投資家からの信頼獲得にも活用される。

国内上場企業として、日本の有価証券報告書に準拠した気候関連情報を記載したい

SSBJ(日本版ISSB基準)

2026年から段階的に有価証券報告書での義務化が始まる。ISSBと同様にTCFDに沿った情報開示を求められる。


まとめ:国際基準を戦略に取り込み、信頼ある環境情報発信を

気候変動への対応が企業の競争力や信頼性に直結する時代において、国際的な基準やフレームワークの活用は、単なる制度対応ではなく経営戦略の一部です。GHGプロトコルやISO規格に基づいた排出量の算定を起点に、SBTiによる目標認定、TCFDやCDPでの開示、ISSBやCSRDによる財務報告との統合へと対応を進める企業が増えています。

重要なのは、「なぜ排出量を測定するのか」「誰に、どのような情報を示すのか」といった目的を明確にすることです。その上で、自社の事業環境や業界特性、将来的な規制を見据えた最適な基準を選択・組み合わせていくことが求められます。

Terrascopeでは、こうした複雑な制度や規格の整理を支援するとともに、企業ごとの排出量算定と脱炭素戦略の立案を強力にサポートしています。信頼性ある情報開示を実現し、サステナブルな成長へとつなげていきましょう。ソフトウェア機能の無料デモやご相談をお受けしていますので、下記フォームからお問合せください。Terrascope Japanの担当者が、プラットフォーム・ツールのご紹介、サポート・コンサルについてのご説明や、まずはお気軽な相談などにもご対応させて頂きます。