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気候開示

SBTi CNZS バージョン2.0が排出削減計画に求める新要件とは?ネットゼロ基準の主要変更点と企業への影響を解説

2025年3月、SBTiはネットゼロ達成に向けた新たなガイドライン「Corporate Net-Zero Standard(CNZS)バージョン2.0」のドラフトを公開しました。本記事では、バージョン1.0との違いや主な改訂内容、企業が今から備えるべき実務ポイントをわかりやすく解説します。

 


目次

  1. そもそもSBTiネットゼロ基準とは?
  2. 改訂の目的とスケジュール
  3. SBTi CNZS バージョン2.0 初期ドラフトの主な改訂点
  4. SBTi CNZS バージョン2.0に対し企業が備えるべきポイント
  5. Terrascopeのサポートについて


Terrascope サステナビリティ責任者 Lia Nicholsonよりメッセージ

 

そもそもSBTiネットゼロ基準とは?

SBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス(GHG)排出削減目標を設定・推進するための国際的なイニシアチブです。
そのSBTiが2025年3月、企業のネットゼロ達成に向けた新たなガイドライン「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0(以下、SBTi CNZS バージョン2.0)」のドラフトを公開しました。

この最新版の内容を解説するにあたり、まず2021年に発表されたバージョン1.0について簡単におさらいします。

「Net-Zero Standard バージョン1.0」は、2050年までのネットゼロ達成に向けた世界初の公式ガイダンスとして位置づけられ、企業が取り組むべき道筋を2段階のアプローチで示しました。

  • 短期目標(Near-term targets):5〜10年以内に達成すべき具体的な排出削減目標。企業はこの期間中に実現可能な削減計画を策定することが求められます。

  • 長期目標(Long-term targets):2050年までに少なくとも90%の排出削減を達成することを目指すものであり、企業はこの長期目標に向けた全体戦略の構築が求められます。

 

関連記事:SBTとは?認定取得メリットや日本企業の対応状況を解説

参考:SBTI CORPORATE NET-ZERO STANDARD VERSION 1.0


改訂の目的とスケジュール

SBTi CNZS バージョン2.0は、地球温暖化を1.5℃に抑えるという目標に沿って、企業が科学的根拠に基づいた強固な温室効果ガス(GHG)排出削減目標を設定できるよう支援する、より高度なフレームワークとして位置づけられています。

このアップデートは、2021年に発表されたバージョン1.0に対して、企業やグローバルなステークホルダーから寄せられたフィードバックをもとに、透明性・実現可能性・柔軟性といった課題に対応する内容となっています。

バージョン2.0では、新たに中間マイルストーンの導入、業種別の目標設定枠組み、報告体制の改善といった実践的な要素が追加されており、さまざまな業種・地域の企業が、実行可能なネットゼロ戦略を採用しやすくなるよう設計されています。

今回のバージョン2.0ドラフトに対するパブリック・コンサルテーションは、2025年6月1日まで受け付けられており、SBTiは企業や関係ステークホルダーからの意見を広く募集しています。集まったフィードバックは、基準の実効性を高めるための貴重な情報として活用され、2025年末から2026年初頭にかけて正式なバージョン2.0最終版が発表される予定です。

参考:SBTi Net-Zero Standard v2.0 Draft

SBTi CNZS バージョン2.0初期ドラフトの主な改訂点

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  1. 長期目標に対する「中間マイルストーン」の導入
    企業は新たに、2040年などの「中期目標(mid-term targets)」を設定する必要があります。これにより、目標達成までの進捗をより明確に可視化することができます。バージョン1.0は、短期(5〜10年)および長期(2050年まで)の目標設定のみが求められており、進捗の透明性に限界がありました。

  2. バリューチェーン外での削減対策(BVCM)の優先化
    バージョン2.0では、再生可能エネルギーへの投資や植林プロジェクトなど、企業の直接的なバリューチェーンの外で行われる取り組みについて、最低限の実施基準が推奨されています。バリューチェーン外の対策に積極的に取り組む企業には、その貢献に対して社会的・事業的なインセンティブ(評価やブランド価値など)が与えられるようになります。

    BVCM(Beyond Value Chain Mitigation)とは、企業が自社の事業活動やサプライチェーンの範囲外で実施する、温室効果ガスの排出削減や除去に関する活動を指します。
    このような取り組みによって、企業は自社の直接的な排出削減に加え、より広範な気候変動対策にも貢献することができ、BVCMは企業の包括的な気候戦略において重要な要素として位置づけられています。

  3. 業種別の目標設定の柔軟性
    航空業界やセメント業界のように、技術的または資源的な制約を抱える産業においては、それぞれの特性や制限に応じた削減目標を設定できる柔軟性が認められます。これにより、現実的かつ実行可能な脱炭素戦略を業界ごとに設計しやすくなります。

  4. データ報告の強化
    報告の一貫性と透明性を高めるためのプロトコルが強化されており、正確なスコープ 3(バリューチェーン)排出量を含むことが求められます。これにより、グローバル基準との整合性が保たれ、データの不整合リスクが軽減されます。

  5. 新興市場や中小企業への配慮
    スタートアップ企業、中小規模の企業、新興国市場の企業に対しては、より簡素化された報告要件や柔軟な基準が適用され、準拠しやすくなるよう設計されています。

  6. 最新の科学との整合性
    バージョン2.0で策定されるすべての排出削減経路は、IPCC第6次評価報告書(AR6)に基づいており、地球温暖化を1.5℃に抑えるというシナリオに準拠しています。これにより、基準が最新の気候科学と整合されます。

  7. 残留排出と除去の指標の明確化
    バージョン2.0では、排出量削減を最大限に行ったうえでもどうしても削減しきれない「残留排出」への対応と、それを相殺するためのカーボンリムーバル(炭素除去)に関して、より効果的な管理が求められるようになります。これは長期的な気候インパクトを確保するためのものです。

  8. 公的説明責任の強化
    企業は、目標の認証から12か月以内に取締役会承認済みの気候移行計画(climate transition plan)を策定・開示することが求められ、ステークホルダーとの間で透明性と信頼性の向上が期待されます。

SBTi CNZS バージョン2.0に対し企業が備えるべきポイント

SBTi CNZSバージョン2.0は、ネットゼロを目指す企業に対して、これまで以上に高い透明性・整合性・実行性を求めるガイドラインとなります。企業はまず、その内容と影響を主体的に理解することが出発点です

企業が取り組むべき具体的なポイントは以下の通りです。

  • スコープ1・2・3の排出量を正確に測定し、信頼性のあるデータ収集・報告体制を構築する。

  • AIなどの先進的なツールを活用し、排出量トラッキングの効率化と全社的なデータ統合を進める。

  • バージョン2.0のフレームワークに沿って、意欲的かつ実行可能な排出削減目標を設定し、ステークホルダーの期待に応える。

  • 社内チームやサプライチェーン全体と気候目標を共有し、一体となって脱炭素に取り組む。

  • サステナビリティ目標や実績を適切な頻度と形式で公開し、信頼と説明責任を果たす。

  • 自社の気候戦略を見直し、SBTi CNZS バージョン2.0との整合性を持たせるためのギャップを明確化し、改善アクションを講じる。

  • 複数の気候シナリオに基づくリスク評価を行い、脱炭素戦略の妥当性を検証する。継続的な準備と協働によって、サステナビリティリーダーとしての立ち位置を確立する。

これらの取り組みを通じて、企業は自社の信頼性と競争力を高め、環境責任ある企業として業界内でのプレゼンスを強化できます。
適切なツールと戦略を活用すれば、サステナビリティの専門家は、よりグリーンな未来に向けて実効性ある変革を推進していくことができるでしょう。


Terrascopeのサポートについて

SBTi CNZS バージョン2.0に対応するには、排出量の正確な可視化や目標設定、進捗の定期的なモニタリングなど、継続的かつ体系的な取り組みが求められます。

Terrascopeは、こうした要件に対応するためのSaaSプラットフォームと専門的な知見を提供しています。
スコープ1・2・3を含む排出量の測定・分析、削減戦略の立案、SBTi CNZS バージョン2.0に準拠した進捗管理、レポーティング支援まで、ネットゼロ達成に向けた企業の取り組みを一貫して支援します。

SBTi Ver.2.0への対応を、脱炭素経営の加速に繋げませんか?
Terrascopeでは、企業の状況に応じた柔軟なサポートを提供しています。無料デモやご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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