導入ソリューション
企業カーボンフットプリンティング(CCF)
製品カーボンフットプリンティング(CFP)
トランジションプランニング
EPR(拡大生産者責任)レポーティング
本社所在地
シンガポール, ダウンタウン中心地
業界
医薬品
企業規模
14 カ国で事業展開
従業員 500〜1,000 名
- 監査対応可能なカーボンベースラインの確立
2023年を対象にスコープ1・2・3の排出量を網羅的に算定し、信頼性の高い気候関連開示と年次パフォーマンス追跡の基盤を構築。 - 製品レベルのインサイト獲得
TerrascopeのAIプラットフォームを活用し、製品単位でターゲットを絞った脱炭素戦略の立案を実現。 - 戦略的ベンチマーキングの実施
同業他社との排出量比較により、自社のサステナビリティ・ロードマップに客観的な指針を付与。 - 国際包装規制へのレポート対応支援
オーストラリア、シンガポール、ベトナム向けの包装データ整備を支援し、EPR(拡大生産者責任)規制への確実な対応を実現。 - コスト・ベネフィット分析による意思決定支援
脱炭素施策を定量評価し、運用コスト・規制対応・排出削減効果を総合的に検討可能な体制を設備。 - 将来を見据えたアクションプランの始動
2024年の測定サイクル拡大に着手。2023年のインサイトを基にスコープ3削減に向けた取り組みを本格化。
iNova Pharmaceuticals について
iNova Pharmaceuticalsは日本を含むアジア、オーストラレーシア、中東、欧州、アフリカで事業を展開するグローバル専門医薬品企業です。1,100 以上の SKU を有し、のど・せき・かぜ、創傷ケア、スキンケア、疼痛管理、体重管理など、幅広い領域に製品を提供しています。
同社は75 以上の市場への製品供給を実現するため、トップクラスの第三者製造業者と提携し、製品管理・流通・規制対応はiNovaグループ各社が担っています。昨今、ステークホルダーからの気候関連開示要請や規制強化が進む中で、特にスコープ3排出量の炭素管理強化が急務となっていました。
課題
iNovaはすでにサステナビリティへ向けた有意義な施策を講じていたものの、自社のカーボンフットプリントをより精緻に把握・管理するためには、いっそう堅牢なシステムと高精度なデータが不可欠であると認識していました。従来の支出ベースの推計や静的なデータセットに依存した手法では、得られるインサイトが全体的な傾向にとどまり、製品別やサプライヤー別の排出要因を十分に可視化することができませんでした。これは、社内チームが排出削減の重点領域を的確に把握し、脱炭素化施策の優先順位をつけて実行するうえで大きな課題となっていました。
同時に、ヘルスケア業界のリーディングカンパニーとして、iNovaは各国の報告基準やコンプライアンス要件を持つEPR(拡大生産者責任)規制の複雑化にも直面していました。こうした多様な要請に対応し、実効性あるサステナビリティの前進を実現するためには、監査対応可能な排出量ベースラインを統合的に構築し、パフォーマンスを動的に追跡できるプラットフォームの導入が不可欠だと判断しました。この変革により、データのサイロ化を解消し、業務の可視性を高め、ステークホルダーからの信頼をさらに強固なものにすることを目指しています。
Terrascopeの支援により、自社の排出フットプリントや業界内での自社の位置づけをチーム全体で把握することができました。得られたインサイトは、サステナビリティ目標と事業収益の両立に向けて、本当に注力すべきポイントに焦点を当てるうえで大きな助けとなりました。
Paul Smith
Chief Operations Officer,
iNova Pharmaceuticals
Terrascopeのソリューション
Terrascopeは、排出量の測定と管理を包括的に行うソリューションを導入し、iNovaが自社のカーボンフットプリントと規制リスクをより鮮明に把握できるよう支援しました。まず2023年を対象にスコープ1・2・3 を網羅するフルスコープ排出量アセスメントを実施。活動データを5 万件超の排出係数とAIでマッチングさせ、700以上のSKUごとにモデルベースの高精度な推計値を算出しました。このアプローチにより、大量の一次データ収集に依存することなく、国際的に認められたカーボンアカウンティング基準に準拠した算定が可能となりました。さらに、製品別・事業部別・地域別・スコープ別に排出量を可視化できる動的なダッシュボードを提供することで、各部門が静的なレポートから意思決定に繋がるリアルタイム分析へと移行できる環境を整備しました。
図 1:業界競合と比較したiNovaの排出インベントリ
測定に加え、Terrascopeは同様のビジネスモデルを持つ製薬企業とのピア・ベンチマーキング調査を実施。これにより、iNovaの排出プロファイルを検証し、スコープ3がiNovaの総排出量の 99%を占めていること、そしてその構成が業界標準と一致していることを確認しました。また、同業他社の実績をもとに、温室効果ガス(GHG)削減のターゲット施策における有望な改善機会も浮き彫りになりました。
EPR規制が世界的に拡大する中、iNovaは主要市場において包装に関する報告義務を順守する必要がありました。Terrascopeは、戦略パートナーであるRicardo PLCと連携し、シンガポール、ベトナム、オーストラリア向けの規制報告に対応するための販売・包装データの整備を支援しました。具体的には、2024年の販売量に基づき、一次・二次・三次包装の重量を紙、段ボール、プラスチック、アルミニウムなど材質別に分類して取りまとめました。これにより、iNovaは各国規制への確実な対応を図ると同時に、包装材に起因する排出量とリスクを可視化し、戦略的な意思決定につながるインサイトを得ることができました。
さらに、Terrascopeのプラットフォーム上で、2023年のベースラインとした複数の脱炭素施策についてコスト・ベネフィット分析を実施。包装材の代替や輸送の最適化といった具体的な削減施策ごとに投資収益率(ROI)を評価できるようになり、定量的な意思決定を支援しました。
インパクト
Terrascopeとの取り組みにより、iNovaは初めて、監査対応可能な完全版のカーボン排出ベースラインを確立しました。SKUレベルでの詳細な分析により、包装が主要な排出要因として浮き彫りになり、特定の出荷に伴う輸送由来の排出も大きな割合を占めていることが判明しました。これらの結果は、輸送ルートの見直しやサプライヤー選定の最適化といった具体的な改善策の指針となり、排出削減に向けた優先順位の明確化に直結しています。
ピア・ベンチマーキングを通じて得られたインサイトは、自社の排出強度を業界のベストプラクティスに照らして評価する重要性を裏づけるとともに、さらなる削減施策の可能性を広げる契機となりました。
さらに、TerrascopeとRicardoの協働により、iNovaは複数の法域にまたがる包装コンプライアンス要件への対応体制を強化。これにより、規制対応の確実性を高めただけでなく、排出削減にとどまらない業務効率化の新たな道筋も見出しました。
こうした一連の知見をもとに、iNovaは2024年の測定サイクルを始動。直近の買収による事業拡大を反映し、対象製品およびサプライチェーンの範囲をさらに拡張しています。現在は、包装仕様の刷新や物流戦略の見直しによる追加的な削減機会の評価を進めるとともに、優先サプライヤーとの協働による脱炭素の可能性を継続的に検証しています。
Terrascopeを業務およびサステナビリティのワークフローに組み込むことで、iNovaは受動的な規制対応から、能動的かつデータドリブンなカーボンマネジメントへと進化。気候意識が高まる業界において、同社のポジションはより一層強固なものとなっています。