日本・世界のカーボンフットプリントの重要性や義務化の流れ、計算方法とポイント、Terrascope(テラスコープ)のツールを活用したポッカ社など大手企業のCO2排出量の計測・削減事例をご紹介します。
目次
カーボンフットプリント(CFP)は、製品やサービスが経済活動のどの段階でどれだけの温室効果ガス(GHG)を排出するかを、ライフサイクルアセスメント(LCA)の枠組みを用いて CO₂換算量(CO₂‑eq) で定量化する指標です。
国際規格 ISO 14067:2018 が主要な算定基準で、2025年現在も同版が有効(次版はドラフト段階)。定義では「製品システムの総GHG排出量から除去・吸収量を差し引いた値」と規定されています。
LCA は、製品の原材料調達から生産、流通、使用、廃棄・リサイクルまでの全工程(“cradle‑to‑grave”)を対象に環境への影響を評価する手法です。
関連ページ:LCAとは?CFPはこれらのプロセスにどのように適用できるのでしょうか?
段階 | 主な排出源の例 |
---|---|
原材料調達 | 資源採取、部品・素材生産、農業生産 |
生産 | 製造ラインの熱・電力、包装材製造 |
流通 | 国内外輸送、倉庫保管(冷蔵・冷凍含む) |
使用 | 家電の運転電力、洗剤・水の使用 |
廃棄・リサイクル | 焼却、埋立、リサイクルプロセス |
従来は自社工場やオフィスで発生する直接排出(スコープ 1)に注視する企業が多く、製品単位での排出量はブラックボックスになりがちでした。CFPは“見えない排出”をサプライチェーン末端まで可視化し、改善策の優先順位付けに活用されます。
例えば、同じ店舗に並んでいるお茶であっても、ペットボトルに入ったものと紙パックに入ったものでは、容器の製造や廃棄にかかるCO₂排出量に違いがあります。
製造やリサイクルが容易な容器に入ったお茶の方が、カーボンフットプリントを算定した時にCO₂排出量が少なくなります。
こうした製品のラベル情報は、消費者が環境負荷の低い選択をする判断基準となり、企業側には低炭素設計の競争力をもたらします。結果として、サプライチェーン全体が低排出型へシフトする好循環が生まれます。
CFPの詳しい定義については、経済産業省・環境省が作成したガイドラインに詳しく掲載されています。
参考:カーボンフットプリント ガイドライン|経済産業省、環境省
脱炭素経営の指標として、製品単位のカーボンフットプリント(CFP)開示はもはや「先進企業の取り組み」に留まりません。GX 推進法による基本方針、ISSB 基準の国内導入、EU CBAM への対応、取引先からのデータ要請、そして環境表示規制の強化。五つの潮流が CFP を“事実上の必須要件”へと押し上げています。
GX推進法(2024 年5月施行)
基本方針に「製品ライフサイクル排出量の定量把握・開示を推進」と明記
2050年ネットゼロへ向け、企業に LCA 開示を求める政策方針が示された
出典:内閣官房 GX 実現に向けた基本方針(p.11, 14)
ISSB/IFRS S2 開示ロードマップ
金融庁 WG 資料で、東証プライム企業は 2027年度決算(2028年提出) から IFRS S2 相当の気候情報開示を制度化する方向で検討
Scope 1-3 と製品・サービス別排出原単位の開示が対象範囲
出典:金融庁 サステナビリティ情報の開示と保証 WG 資料 p.19(2024-05-14)
関連ページ:SSBJとは?開示基準や義務化の対象と適用時期の見込みについて解説
EU CBAM 対応
2023年10月から報告フェーズ開始(鉄鋼・アルミなど6品目)
2026年1月から課金フェーズへ移行し、製品ごとの CO₂ 排出係数登録+証書購入が必要
2026年に下流製品(自動車・家電等)への適用拡大を欧州委員会が検討
バリューチェーン圧力(上流からのデータ要請)
トヨタ自動車・三菱商事・味の素などが 2024年版調達ガイドラインで取引先に CFP/Scope 3 データ提出を要請
未対応サプライヤーは取引選定で不利になる可能性がある
環境表示規制の強化
2025年4月改正「景品表示法・環境優良誤認表示ガイドライン」で、CFP 数値は算定基準・検証機関を併記しないと不当表示の恐れ
2024年度版 製品カーボンフットプリント算定ガイドライン で ISO 14067 と WBCSD PACT のデータ互換を推奨
出典:消費者庁リリース(2025-02-07)
カーボンフットプリントマークとは、対象の商品がライフサイクルアセスメントで発生するCO2量を数値で表示したマークのことです。
「カーボンフットプリントマーク」を取得すると、消費者に対してCO2排出削減に取り組んでいることをアピールすることができます。
また消費者が商品を購入するときに、CO2排出量が少ない方の商品を判別できます。
数字の大小で製品の優劣が決まるわけではありませんが、環境意識の高い消費者から選ばれやすくなるメリットがあります。
カーボンフットプリントマークは、カーボンフットプリントへの登録申請を受理されると取得することができます。
カーボンフットプリントマークは第三者機関が、申請者が提出したカーボンフットプリントの算定結果を審査して問題がない場合に送付されます。
カーボンフットプリントの算出方法は「食品」「電子機器」「住宅設備」など種別によって算定ルールが分かれています。
計算方法が複雑なため、詳しい内容については後述します。
カーボンフットプリントマークの計算には様々なルールがあります。
製品の原材料調達から廃棄・リサイクルされるまでの、5つの工程すべてで排出されるCO2が対象となります。
それらのCO2排出量の合計を求める計算式は以下の通りです。
CO2排出量=Σ(活動量×CO2排出原単位)
活動量とCO2排出原単位とは何か、実際の組み合わせ例は以下の通りです。
原材料調達 | 原材料の使用量 × 原料1kg当たりのCO2排出量 |
生産 | 商品生産時の消費電力 × 消費電力1kWh当たりのCO2排出量 |
流通 | 商品の輸送量 × 商品1kgを1km輸送するときのCO2排出量 |
使用 | 商品使用時の消費電力 × 消費電力1kWh当たりのCO2排出量 |
廃棄 | 商品の焼却量 × 商品1kg当たりのCO2排出量 |
次に、計算例を紹介します。
例えばある電化製品を使用したときの、活動量とCO2排出原単位は以下のようになります。
(1)活動量 | 使用時の電力消費量(kWh)=4.0kWh |
(2)CO2排出原単位 | 消費電力1kWh当たりのCO2排出量=455g-CO2eq/kWh |
[計算] | (1)活動量 × (2)CO2排出原単位=4.0×455=1,820g-CO2eq |
カーボンフットプリントの算出では、商品生産者が直接計測した1次データを用いると、より正確な計算結果を求めることが可能です。
しかし実際には別のデータベースによる2次データを用いた計算が主流となっています。
活用するデータベースの代表例には以下の2つがあります。
商品種別算定基準 (Product Category Rule:PCR) |
インターネット上で公開されたカーボンフットプリント算出用2次データ |
原単位データベース | 国が整備したライフサイクルアセスメントデータベースを基に作成・管理された2次データ |
これらのデータベースを基にカーボンフットプリントを算出した場合、各企業が行ったCO2削減効果が反映されないデメリットがあります。
例えば原材料メーカーが自主的にCO2削減に取り組んだとしても、商品のカーボンフットプリントの算出に適合されないため、正当な評価が行われない恐れがあります。
カーボンフットプリント導入におけるデメリットや課題を紹介します。
カーボンフットプリントのルールに従って、CO2排出量を算出するには相当の労力が必要になります。
材料の調達先や、流通業者、廃棄処理業者などの取引先からデータを取得するにも、データが未整備であれば収集作業は困難になります。
また中小企業のように限られたリソースしかない企業では、大企業と異なり多くの工数を避けないのが現状です。
カーボンフットプリントでCO2排出量を算出するときに、製品カテゴリールールや業種別のガイドラインがない分野が存在します。
その場合はISO14067や「GHG Protocol Product Standard」のデータを参照しますが、必ずしもすべての業種に適用できるとは限りません。
算出する企業の担当者の裁量により、算出結果にばらつきが発生する恐れがあります。
カーボンフットプリントでは原材料メーカーや流通経路などの情報が必要になります。
算出結果を開示した場合に、それらの情報が公開されて他社と比較される可能性があります。
情報によっては企業の製品競争力に影響があるため、開示情報には注意が必要となります。
カーボンフットプリントはCO2排出量を把握する手段として有効ですが、算出しただけでは排出量削減にはつながりません。
ただしカーボンフットプリントは、どの工程でCO2排出量削減が可能か検討する材料として活用することが可能です。
実際にCO2排出量を削減するには、商品の使用原材料、生産工程や流通方式などを見直す必要があります。
前述したようにプリントの算出は、正確さを求めるとデータの精査に工数が取られてしまい、反対に工数をかけずに簡易的に算出すると正確さが損なわれてしまう問題があります。
こうした問題に対して、一つの解決法として外部サービスを利用するという選択肢があります。
ここからは「Terrascope(テラスコープ)」のツールを活用し、実例を通して、カーボンフットプリント算出の課題に取り組んだ飲料食品メーカーの企業の事例をご紹介します。
缶コーヒーや清涼飲料水などの飲料食品メーカーとして有名な「ポッカ」は、CO2削減のために商品の加工方法や容器原料の改良、流通経路や工場設備などに取り組んできました。
一方で課題として、企業のCO2排出量85%以上を占める「スコープ3」については、SKUレベル(製品別)の排出量などの正確なデータを収集することが困難になっていました。
その理由は複雑な商品流通経路や、複数の商品を扱っていることで原材料や製造プロセスが煩雑になっていることでした。
その課題に対してポッカでは、CO2排出量を測定・管理・最適化するためのツール「Terrascope」を採用して、効率的な解決に取り組みました。
Terrascopeでは独自の機械学習機能を用いたデータ解析により、3週間という短期間で(ポッカの解析期間の1/5)データの取り込みを完了させました。
特にポッカが自社で解析が困難と考えていたスコープ3のCO2排出量について、Terrascopeではマシンラーニングを用いて構成要素を分解し、実際のサプライヤーデータの92%以上の精度で算出することを可能にしました。
またポッカではTerrascopeを採用したメリットとして、これまで気づかなかった自社のCO2排出の課題に気づいた点を挙げています。
例えば商品のパッケージや、生産地に起因するCO2排出量が想定より多かったことが分かり、今後の改善テーマとなることを発見することができました。
このようにカーボンフットプリントの算出に、外部サービスを利用することで最適化を実現する企業も現れています。
事例ページ:食品業界・ポッカのカーボンフットプリント測定・削減の取組み事例
Terrascopeツールを活用し、排出量ホットスポットを特定し、スコープ3排出量の包括的なベースラインの構築を達成。スコープ3排出量の25%削減の可能性と、サプライチェーンコスト削減の可能性の把握が可能となりました。
「炭素価格の導入」が食のサプライチェーンへ大きな影響をもたらすとの分析から、早期にScope3の可視化へ着手。Terrascopeの機能で膨大なデータの分類・計測が可能となりました。
持続可能性を重視する顧客とEUで厳格化された規制に備え、主要製品のカーボンフットプリント・排出量測定に取組みました。排出量の99%を占める上位30の活動を特定し、Terrascopeの5倍もの高速なデータ取込みプロセスにより、タイムリー且つデータ主導の意思決定のもと、脱炭素化への取組みを前進させています。
Terrascope(テラスコープ)のシステムを活用する日本国内・海外の様々な有数企業のカーボンフットプリント、脱炭素化・CO2排出量の計算・削減の成功事例については、脱炭素化の支援・取り組み事例のページをご確認ください。
Terrascopeは、カーボンフットプリント(CFP)の測定から削減施策、報告・開示までをワンプラットフォームでサポートし、サステナビリティ専門家とカーボンデータ分析家によるプロフェッショナルサービスも提供しています。
GHG排出量の測定
約10万種類の排出係数データを自動マッチングし、スコープ 1‑3 やCFPを高精度かつ迅速に可視化
炭素削減計画の立案・推進
排出量の多いホットスポットを特定してシナリオ分析を行い、具体的な炭素削減ロードマップを提供
報告作業・気候開示
SBTi、FLAGガイダンス、IFRS S2など国際基準に準拠した報告と開示をサポート
サプライチェーン連携(PACT準拠)
WBCSDのPACTに公式対応。異なるプラットフォーム間でも製品レベル排出データをシームレスに交換し、より賢明な調達・製造の意思決定を支援。
詳細情報:Terrascope、WBCSD PACT 準拠(PACT Conformant)へ:サプライチェーン全体でのスコープ3炭素透明性を実現
機能の無料デモやご相談をお受けしていますので、下記フォームからお問合せください。
Terrascope Japanの担当者が、プラットフォーム・ツールのご紹介、サポート・コンサルについてのご説明や、まずは気軽なご相談などにご対応させて頂きます。
関連記事:脱炭素化コンサルティングとは?具体施策やTerrascopeの成功事例を解説